生活困窮者支援のネットワークをつなげる(編集部)
制度の狭間に落ちた人に向き合えるか
基調報告は、北九州市保健福祉局 工藤一成局長、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 山崎史郎地方創生総括官、宮本太郎中央大学教授による鼎談として行われた。 はじめに宮本教授から、生活困窮者自立支援法の意義の確認とともに、まちづくり、地方創生と連携することで、地域での政策的な優先順位があがることが期待され、そのために何をすればよいかを明らかにしていきたいという趣旨が述べられた。議論の前に、2015年9月に千葉県で起きた、公営住宅の家賃が払えず強制退去を命じられた母子が無理心中を図り、母が娘を殺してしまった事件が事例として出された。この母子には、家賃滞納のため市の住宅課が、また、国民健康保険料も滞納していたため保険年金課、就学援助や児童扶養手当を受けていたため教育委員会、子育て支援課が直接関わり、母は市の給食センターでパートをしていたという。しかし、これだけ多くの行政機関が関わりながら、親子の状況を正確に把握し、向き合う部署はなかった。住宅課は家賃減免の制度があることを伝えておらず、パートのため夏休みは所得がゼロになる仕事なのに保険年金課は事情を聞かなかったなど、当事者の困窮状態に各部署が関心を払っていなかったためである。宮本教授は、この制度によってこのような悲劇を繰り返さないようになるのか、生活困窮者自立支援制度が生きる地方創生をどう考えるか、市民は何を期待できるのかと問うた。
第三次ベビーブーム世代を形成できず山崎総括官は、今の社会状況の厳しさの要因を、1990年代後半から始まるはずだった第三次ベビーブーム世代を形成できなかったことだと指摘する。団塊ジュニア世代は、金融から始まる経済不況に直撃され、就職、結婚が困難となり、ニートや非正規労働者の増大、若年失業者の問題など集中的に貧困がもたらされている。地方では一層、この傾向が強い。そのため、生活困窮者と孤立が最大のテーマだという。地方創生と生活困窮者支援は同じ問題に対応し、アプローチが違うだけだと説明した。
宮本教授は、地方創生はマクロ、生活支援はミクロの視点だと整理したうえで、団塊ジュニア世代が、きちんと子どもを育てられる仕事につけていない問題を指摘し、ただし、自治体ではこの二つがつながった問題として認識されているのかと疑問を示した。 山崎総括官は、地域、個人によって生活は違うので統制的な方法ではなく、現場が使いやすいように制度自体がかなり自由なことや、本当に困窮した人、孤立した人への支援には、現場中心の対応が必要で、必須事業である自立相談事業の方法も、任意事業の取り組みも、各自治体で工夫が可能だと述べた。そして支援する人も必要なので、自治体の取り組みに対して自治体職員だけでなく、地域の人たちの気持ちが固まっているかどうかが問われると応じた。
生活困窮者自立支援制度は、個人が自立していくための仕組みであり、自立の定義は当事者が決める。国は制度の枠組みを示し、自治体がどうするかを促すのだが、宮本教授は2015年度の任意事業実施自治体が3割以下であることを指摘し、どうすれば実施主体である自治体が個人の自立が地域の自立につながるという認識を持ち、この取り組みが政策的に不可欠だという動きになるのかと問うた。