②時代の転換期における生活者ネットワーク/市民ネットワークの未来(早稲田大学名誉教授 坪郷 實)
生活者ネット/市民ネットの存在意義
自治体政治において、生活者ネット/市民ネットはローカルパーティーとして、次のような3つの点で、国政政党に対してもインパクトのある先駆的な役割を果たしてきた。
第一に、1980年代から、生活から政治を考える「生活者の政治」を提起し、市民自治から地域政治を考え、ジェンダー平等の政治を切り拓いてきた。生協活動、市民活動から多くの女性議員を生み出し、全国的に女性議員の拡大につながる動きを作り出した。
第二に、生活者の政治は、自治体議会に多くの政策提案を行い、食品安全条例、地下水保全条例、自治基本条例・議会基本条例、こども基本条例などを実現した。ネットが掲げた「子育て・介護は社会の仕事」というスローガンは、2000年前後の時代の政治争点を象徴するものだった。
第三に、生活者ネット/市民ネットは、市民、生協、ワーカーズ・コレクティブ、市民活動団体等、社会運動をつなぐネットワーク型政治運動を提起し、実践してきた。さらに、地域の政策課題を市民と共に実態調査し、政策を提案する独自の政治スタイルを作り出した。政策実現のために地域の多様な主体を結び付け調整し、政治的合意を作るコーディネーターであり、ネットワーカーである。
ここで、ネットが大事にしてきた議員が3期(ないし2期)で交代するローテーション制度について触れておきたい。現在、複数のネットでローテーション制度の見直しが議論されている。ローテーション制度は、生活感覚のある議員を増やすためのツールであり、女性議員が続々と増える時期にはネットの活力となってきた側面がある。他方、議員・候補者擁立の側面、有権者との関係などに課題もある。議員交代にあたって、ネットを離脱し、他の政党や無所属で立候補し、競合したり、現職議員が新人候補者に交代する際に議席を失う事例があった。加えて、2000年の分権改革後、行政改革、議会改革、行政への市民参加の拡大、女性議員の増加など、自治体政治の大変化の中で、議会での政策議論が重要となり、政策実現のための議員の政策力、政治的交渉力がますます重要になっている。有権者には、実績があり信頼する現職議員が次期選挙に出馬せず、新人に交代することは十分に理解されないこともある。2期、3期で機械的に交代するのではなく、任期ごとに議席の確保・議席の増加を目指す場合も含めて、総合的に柔軟に判断することが望ましい。中期的には組織の活性化のためにも多様性のある新人議員を増やすことを考えながら柔軟に対応すること、また期数制限については都道県ネットで目安を立て、各地域ネットで決めることなどが考えられる。
政策実現のために、自治体政治においては、区市町議会と都道県議会の政策的つながりが必要なため、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県では、少数であるが、都議、県議を当選させている。また、地域の実情に応じて国政政党とも連携してきた。政策実現には都道県の生活者ネット/市民ネットが、衆議院議員選挙・参議院議員選挙時に限定されない、国政政党との連携のための戦略(中期計画)を持つことも大事である。
(p.21-P.22 記事抜粋)