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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

もうひとつの市民政治③
代理人運動とは何か(東京・生活者ネットワーク代表委員 山内玲子/埼玉県市民ネットワーク共同代表 辻 浩司)

季刊『社会運動』2022年1月発行【445号】特集:代理人運動と生活クラブ―民主主義を終わらせない

市民感覚を失わず経験値を蓄積する


─議員経験者であるお二人から見て、議会や選挙でどのような壁がありますか。
山内 候補者選びに苦戦しています。1980年代には専業主婦が半数を占めていて、家庭で育児をしたり、一度仕事を辞めて子育てをしながら地域活動に参加している方たちが多くいました。その当時は、食の安全や地域の環境、子育てや介護などの問題に、「私たちが声を挙げていかなければ駄目ね」「じゃあ、一緒にやろう」と話が進んだのだと思います。
しかしいまは女性が働きつづけることは当たり前になり、仕事を辞めてまで我がこととして政治の世界に挑戦する人は少なくなりました。議員=政治家=特別な人というイメージもあるからでしょう。東京・生活者ネットワーク(以下、東京ネット)の議員は交代制(ローテーション)で現在は、最長3期12年までとしています。そのうえで、議員をやめた後に、その経験をどのように地域へ還元し、自分のライフステージのステップアップに生かせるのか。議員経験を楽しむことも重要ではないかと思います。市民の代理人であるネットの議員が生き生きと動いていることは、「政治って意外に身近!おもしろそう!」「私もやってみよう!」と感じてもらえるきっかけになるのではないかと思います。

辻 選挙で投票する時、多くの人はいろんな基準で議員を選びます。いくら政策が良くても、会ったことも話したこともない人よりは、お祭りとかスポーツ大会で一緒に汗を流したり、顔なじみで親近感を持っている人に投票することも多いでしょう。しかしネットの代理人は一定の期間で人が代わります。そのため地域の人との関係性をなかなか築きにくいのです。埼玉県市民ネットワークは原則2期8年(条件により3期)での交代をルールにしていますが、私の感覚から言うと8年間で次の代理人候補を発掘するのは相当難しいことです。
「代理人とは何か」と聞かれた時、「市民の代弁者です」と説明することがあります。しかし、議員は単なる代弁者ではいられません。政策を実現するためには、役所の執行部と掛け合ったり、地域の関係者との調整も必要です。海千山千のベテラン議員たちも相手にしなければなりません。
特に近年の議会改革のようなテーマについては、会派や党派を超えて議員どうしで議論することも多く、異なる意見を調整する場面が増えています。そのような調整は経験がないとできないため、短期間で議員が交代すると経験を蓄積できないという弊害があると思います。
一方で、議員を長く続けていると特権意識が出てきがちです。市民の意見を聞き、市民と政策を練り上げていく作業が面倒臭く思えてしまう。そうなると市民も議員に「お任せ」になってしまうので、その兼ね合いは難しいところです。
それでも、東京で最初の代理人が誕生してから約40年の歴史があるローカル・パーティーでありながら、いまだにネットは既成政党の補完勢力のような見方をされているのが残念です。代理人は、常に新鮮な市民感覚を持つとともに熟練した民主主義のコーディネーターという、両面を追求する必要があると感じています。

山内 「アマチュアの政治参加」とは、市民感覚をしっかりと持ち続けることです。その意味で、私は交代制には意義があると思います。ただ議会のなかでは、初日から議員であることを求められます。「初めてだから分からない」では許されませんし、信用されません。議員として積み重ねた経験や政策を継承していかなければ、ローテーションは社会に認められ、広がる仕組みにはなりません。そのためにはネットのメンバーも代理人にお任せにしてはいけないということです。
議会のなかで調整したり、様々な議会の壁に対抗しながら政策を実現していくためには、経験値が重要だということは、私も感じます。しかも、議員一人の経験値というより、政治団体・ネットの経験値を積み上げていくことです。日常の市民との活動やつながり、代理人を支える仕組みがうまく機能してこそ、議会のなかでのネットの存在意義が発揮できるのです。

(p.92-P.94 記事抜粋)

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