生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

もうひとつの市民政治④
身近な課題は政治参加へのルート(東京工業大学教授 中島岳志)

季刊『社会運動』2022年1月発行【445号】特集:代理人運動と生活クラブ―民主主義を終わらせない

─市民政治ネットワークの活動は、まさにそれをやろうとしてきたのではないかと思うのですが、残念ながら支持を広げることができていません。

やはり大きくは生活クラブ生協との関係が以前とは変わってしまったということがあるのだろうと思います。私も組合員ですが、インターネット上でも消費材(生活クラブ生協で取り扱う品物)について組合員のみなさんはさかんにやり取りをしていますよね。あれはよかったとか、これはフタが閉まらず困ったとか、いろいろな書き込みがあります。私はあれも一つの政治だと思います。消費材に対してコミットして一緒に課題を解決していこうとしている。
そういう分厚い土台が生活クラブ生協にはあるのに、市民政治ネットは政治というものを狭く捉えているのではないでしょうか。生活クラブ生協は生活に必要な材を提供するという事業。ネットは政治。それは別であるという感覚が強くなってしまったがゆえに、この関係がうまくいかなくなっている。
食べる物を誰がどこで作って、私たちはどう食べるのかということはとても重要な問題です。そこにコミットすることはまさに政治につながっている。そのルートをどう見える化していくかが市民政治ネットにとっての課題ではないでしょうか。
またいまの市民政治ネットは、若い人との接点があまりにも少ないように見えます。私など団塊ジュニア世代はまだ国際化の時代に学生時代を過ごしましたので海外留学もさかんでしたが、最近の学生はあまり留学に行きません。国際的な問題よりも身近な地域の問題に対する興味の方が強い。北海道にいた頃に、シャッター街になってしまった地元商店街にカフェを作るという運動をしましたが、何十人もの学生が参加してくれました。社会的なものにコミットすることをとても求めているのですが、社会運動をしてきた前の世代の人たちとはうまくつながれていません。
それは、若者からは前の世代の運動が魅力のないものに見えている、ということでもあります。若者は市民運動が持っているパターナリズムを感じ取っているのではないでしょうか。左派的な市民運動の活動家たちは、口で言っていることはリベラルだけど、自分でリーダーシップを取りたがり、尊重されないと怒り出し、路線が違えば非難し始めて、やっていることはまさにパターナルという人が多いのです。自分たちは正しいことをしている。だから従うべきであると思ってしまうので、自分と違う考えを排除しがちです。そういう運動にかかわるのは嫌ですよね。
左翼の人たちは、理性の無謬性を過信している。私は左翼の方がパターナルだと思います。その人間観の転換がないと若者はついてこないし、運動は盛り上がりません。市民政治ネットが停滞していると考えるなら、左翼パターナリズムに陥ってないか見直す必要があります。

(p.104-P.106 記事抜粋)

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