②ジェンダーの視点で女性の政治参画を考える(お茶の水女子大学教授 しん・きよん)
─世界各国では女性議員を増やす取り組みが進んでいます。日本では、2018年の候補者均等法を機に、どんな動きがあったのでしょうか。
1999年に男女共同参画社会基本法が成立しましたが、そのなかに政治分野に対する記述はありません。2018年の候補者均等法は、政治分野に特定した形で、「男女の候補者の数ができる限り均等になることを目指して努力しなければいけない」と定め、責務と具体的な方法を明記しました。
その点では画期的だったのですが、問題は候補者を男女均等にする内容が法的拘束力のない規定だったことです。政党がそれを真剣に受け止めたのであれば、拘束力がなくても法律に準じて努力するはずですが、2021年の衆議院選挙をみても、議席が一番多い自民党の候補者の9割が男性で、しかも現職優先を公言しているありさまです。こうした現状を変えるための法律だったのに、実際はあまり機能していません(注1)。さらには各県連や地方の党員などに、法律の意義や具体的な方法が十分議論されませんでした。そのため、地方議会議員選挙で女性比率もほとんど変わらなかったのです。
しかし、2021年6月に法改正があり、地方自治体の議会が実施主体として責務が強化されたので、地方議会にも目を向けた内容へと一歩前進しました。さらに、マタハラ、セクハラの禁止や、子育て世代の議員のサポートなど、新たな条文が加えられ、各自治体の実情に合わせて改善するよう促しています。
民主主義国家としては驚くことに、日本の地方議会選挙では無投票当選が25パーセントもあります。議員のなり手不足が深刻な自治体では、人材育成も重要課題です。女性候補者を発掘し育てることは、人材不足の解消にもつながるでしょう。
そのためには議会が働きやすい場所にならなければなりません。そうなれば、女性議員も増え、地方自治体が活性化されます。国政が一朝一夕でガラッと変わるのは難しいかもしれませんが、地方自治体ではそれぞれ事情も異なり、先進的な自治体では素早い変化も期待できます。新しい試みの好事例が出てくれば、それを見習う自治体や競争も生まれ、よりよい方向に変わるのではないでしょうか。
(注1)2019年の統一地方選で、候補者の女性比率は共産党39%、公明党31%、立憲民主党27%、社民党18%、維新17%、国民民主党14%、自民党はわずか7%だった。2021年9月現在、国会議員の女性比率は、国民民主党35%、共産党32%、立憲民主党18%、維新、公明党16%、自民党10%。
議員を特権化しないルールで、地方から政治を変える
─自民党は男性の現職議員優先を慣行としていますが、議員の交代についてはどうお考えですか。
そこがまさに一番の問題だと思います。一人が何期も議員を務め、しかも息子や娘へと世襲される。不公平・不平等を生む一番の弊害です。政党の最大の目的は議席を増やして政権を取ることですから、市民の代表であることより勝つことが重要で、現職優先はイコール勝つための手段です。いまは投票率が低いので、票を入れてくれる人さえ固めておけば議員になれる。だからますます投票率は低下し、政治への関心が失われていくわけです。この状況を打開する一つの方法として、例えばネットには議員の交代制(2期あるいは3期までとする)というルールがあります。議員を3期やれば12年。一つ何かを成し遂げるには十分な時間です。長く政治家をやればやるほど市民から遠くなり、特権化にもつながりやすいので、それを防ぐ方法として交代制は有効です。
(p.123-P.125 記事抜粋)