②フードシステムを転換するために、私たちができること(総合地球環境学研究所・上級研究員 田村典江)
高齢化、担い手不足、気候危機といった産地の問題は、もはや危険水域に達し、
消費者が「自覚的に選んで買う」だけでは支えられなくなっている。
現行のフードシステム(生産・分配・管理)を捉え直し、
食と農を持続させるために、私たちは何から始めればいいのか。
総合地球環境学研究所で、持続可能な食と農の未来に向けた転換の途を探る
「FEASTプロジェクト」のサブリーダーを務める田村典江さんに聞いた。
「買って応援」から、次のフェーズへ
―現行のフードシステムを変えるために、消費者はどう対応すればいいと考えていますか。
現行のフードシステムへの抵抗や解決を、単純に消費者の選択や責任に帰することには、疑問を持っています。私もかつては、持続可能な漁業のためのMSC漁業認証(注1)を日本に導入したり、FSC森林認証(注2)の取得を支援する仕事に携わっていましたので、「買い物は投票と同じ」と主張していました。エコラベルの付いた商品を買うことは、消費者の権利を行使する投票と同じですよと。でも、そこには重大な見落としがあります。
消費者は、売っているものしか買えません。そして、多くの場合、食品売り場の棚に並んでいるのは、「商品」としての食。徹底的に合理化・均質化された食であって、それ以外は選べないようになっています。消費者と生産者の間に存在する流通部門(食品加工業者、卸売業者、小売業者─これらの機能を一社で果たしているケースも多い)が、利潤を得るために消費者の選択を左右する意思決定を行い、契約や市場を通じて特定の作物を栽培するよう、農家の意思決定にも影響を与えているのが現状です。生産者は必ずしも作りたいものを作れるわけではないし、消費者はエンドユーザーに過ぎず、商品を自由に選ぶ決定権は狭められています。
フードシステムの問題は、構造化された社会経済システム全体の問題。ですから、食の責任を個人の選択のみに押し付けかねない「買い物は投票」という言い方は誤解を招きやすく、背景には欺瞞的な構造があるのです。
持続可能な食と農のためには、食べ物を商品化して利益のみで評価し、生産地や輸送距離を気にかけないような経済モデルから、脱却しなければなりません。そのためには、「消費者」という受け身の肩書きを捨て、より主体性を持った「市民」として自らを再認識しつつ、無理のない範囲で自分にできるちょっとしたこと、しかし戦略的に社会変化につながることを繰り返し行うことが重要だと思います。
(注1) MSC(海洋管理協議会)は、天然水産物を対象とする国際的な漁業の認証を行っている。
(注2) FSC(森林管理協議会)が、環境保全の点から見て適切で、社会的な利益にかない、継続可能な管理をされた森林や、林産物などに対して与える認証。
(P.22-P.24記事抜粋)