②国連「家族農業の10年」の意味 −持続可能な農業を実現する(愛知学院大学准教授 関根佳恵)
近代的な農業による環境や地域社会への弊害は、世界各地で指摘されてきた。
その一方、家族経営の農業が、世界の8割の食料生産を支えており、かつ、省資源でエネルギー効率がよいことが、明らかになっている。
国連「家族農業の10年」(2019?28年)が掲げられ、市民社会組織と国際機関が協力して、農業の環境的・社会的重要性に光を当てたアグロエコロジーとその担い手である家族農業の推進に舵を切ったのには、このような背景がある。
こうした世界的な潮流とその課題、日本の農業の今後について、関根佳恵さんと考える。
「緑の革命」型農業近代化モデルとは
─日本農業はもっと大規模化、省力化、効率化が必要だと言われ続けていますが、関根さんはこうした方向性を「緑の革命」型近代化モデルとして批判的に見ていますね。
「緑の革命」の技術自体は農薬や化学肥料などの19世紀から20世紀初頭に開発されたものですが、国際的にも日本国内でも広がったのは1960年代以降です。F1種などの改良品種と農薬、化学肥料、農業機械、大規模な灌漑設備などをセットにした近代的な技術を取り入れた農業が広まりました。日本ではまだまだ緑の革命の信奉者が農学関係者や官僚に多いので、あまり批判的に見られていませんが、国際的には「功罪両面が大きかった」という評価で、近年ではむしろ罪の部分のほうがクローズアップされています。
機械化と省力化により、短期的には労働時間あたりの収穫量は飛躍的に増えますが、農薬や化学肥料を使い続けると土壌の生態系を壊し、河川や海洋の汚染にもつながるなど、環境負荷が高いと指摘されるようになりました。また収量も、農薬や除草剤に対する耐性を持った昆虫や雑草などが出てきますので、長期的に見ると落ちてきます。
また、かつて農家は種子も自ら採り、肥料も自ら作ってきましたが、いまは企業からそれらを商品として買わなければ農業ができない状況が生まれています。F1の種子、農薬・化学肥料、農業機械を購入せざるをえない。借金をしないと農業ができない生産者が日本でも世界でも増えました。借金を返せなければ経営破綻して農業経営を続けられなくなります。
日本農政が一貫して目指してきたのは、農業の大規模化と農地の集約化ですが、実はそうすればするほど地域のなかで農家の数は減っていきます。それが小中学校の統廃合や商店街の衰退を招いて、さらに人が住めない農村地域が増えていく。いまの日本の農村地域がまさにこの状況ですが、そういう地域社会の持続可能性が失われるという問題点もあります。国際的な市民社会では、こうした状況は民主主義に反することとして語られますが、日本ではそういう視点が弱いです。
また食料システムの上流にあたる農家は、圧倒的に資本規模が大きくなった中・下流の食品加工メーカーや流通、小売チェーンや外食サービスなどの要請に逆らうことは困難です。生産者は、もっと安くと言われれば価格を下げざるをえません。これが農業の近代化の帰結です。農業の「近代化」を「工業化(インダストリアライゼーション)」とも言いますが、国際的には問題視されています。
(P.43-P.45記事抜粋)