協議会③ぐるっと長野地域協議会 −域内の連携で持続可能な社会を目指す
「ぐるっと長野」で提携関係がすぐに実現
「長野県内で産地提携を進めるのは、危機感から。国産原料の調達は今後ますます難しくなるでしょう」
㈱マルモ青木味噌醤油醸造場(以下、マルモ青木味噌)の代表取締役である青木幸彦さんが物静かながらも、慎重な面持ちで語ってくれた。青木さんは、生活クラブ生協の味噌の生産者である。加えて「ぐるっと長野地域協議会」(以下、ぐるっと長野)の代表を務める。ぐるっと長野とは、長野県内の21の生産者と生活クラブ生協・長野、生活クラブ生協・神奈川、生活クラブ連合会でつくる協議体だ。生産、製造、消費の力を結集し域内提携をすすめ、生活クラブのFEC(食料・エネルギー・福祉)自給圏構想=(18ページ参照)の長野県版を目指すことを目標にしている。
ぐるっと長野は、2010年に設立された。参加する生産者は食品加工会社が多いが、農協や酪農、養鶏会社もあってバラエティに富んでいる。設立後まもなく、生産者間の提携関係は進んだ。
例えば、JA上伊那とJAながのでは、マルモ青木味噌が使う加工用米と大豆の契約栽培が始まった。他にも、そばの生産者㈱おびなたは、JA上伊那から玄そばを、長野森林組合 鬼無里事業所は、JAながのから山菜の提供を受けることなどが次々と実現した。しかし、ぐるっと長野ができるまで、県内生産者で原料調達を進める考えは特になかったという。というのも、長野県は一次産品の種類が豊富であっても、小規模の兼業農家が8割を占める。そのため、県内原料を調達することに目を向けてこなかった。
「JA上伊那で玄そばを作っているとは知らなかった」と、おびなたが驚いたように、ぐるっと長野のテーブルがあって初めて互いの状況が共有されて域内提携が実現した。そして、この域内提携の重要性を青木さんは強調する。
「食品製造会社にとって、原料を継続的に安定した価格で調達することが何よりも大切です。会社のトップの使命と言えるでしょう。うち(マルモ青木味噌)は、北海道にも大豆の産地がありますが、飛行機を使わなくても、県内の生産者なら、車を飛ばして産地に会いに行けることは心強いです」。青木さんは、卸売業を使わず、産地と直接つながること、顔の見える関係をつくることこそが産地間提携の核心だと話す。
しかし、青木さんがいま危機感を覚えるのは、一次産品を作る人がいなくなってしまうことだ。
「(原料を)作ってください、と言える関係性があっても、作ってくれる人たちがいなくなってしまうかもしれません。兼業農家の子どもが農家を継がず、土地を売ることも考えられるし、遊休田が多いのが現状です。あと10年くらいで、長野県の田畑が荒廃してしまうのではないかと気がかりです」と眉をひそめる。最近は、温暖化の影響で産地は北へ移る傾向があり、県内産の大豆でも標高の高い所でないとマルモ青木味噌に合うものが採れなくなってきている。
協議会としての展望を伺うと、「ぐるっと長野のシンボルになる新たな消費材(18ページ参照)を作りたいですね。1万5000人の生活クラブ長野の組合員がいるんですから、この強みを生かしたい」と、青木さんは言った。
(P.76-P.78記事抜粋)