①改悪される遺伝子組み換え食品の表示制度 −生活クラブの「自主表示の新ルール」(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 常勤理事 企画部 部長 前田和記)
日本における遺伝子組み換え食品の表示制度はいわゆる“ザル法”と呼ばれている。加工食品に遺伝子組み換え原料が含まれているのかほとんどわからないからだ。ところがさらなる改悪が2023年に実施されようとしている。消費者にとってどんな問題が生じるのか。生活クラブ生協の対応について、生活クラブ連合会の前田和記さんに報告してもらった。
みんな知らずに食べている “ザル”同然の表示制度
遺伝子組み換え作物・食品の商業栽培・流通が始まったのは1996年から。当時は表示制度が無く、消費者は知ることができなかったため、約1千万筆もの署名が国へ提出されるなど遺伝子組み換え表示の義務化を求める市民の声が高まった。そしてようやく2001年に日本で遺伝子組み換え表示制度が始まった。
2022年1月現在、日本で遺伝子組み換えの義務表示の対象となっている作物・食品は8作物と33加工食品群しかない。特に問題なのは、遺伝子組み換え大豆・トウモロコシから作られる油脂・糖類などの原料は様々な加工食品に使用されているが、大半の加工食品には表示義務が課されない(=表示されない)ため、消費者は知らないうちに飲食していることだ。
加工・精製度の高い油脂・糖類などの原料は、遺伝子組み換え原料を用いているか否か科学的に検証できないことを理由に、表示義務の対象外となっている。また、副原料(原材料重量比上位4位以下または同比5%未満の旨)も表示義務の対象外になっている。
「遺伝子組み換えでない表示」ができなくなる!
遺伝子組み換え表示を含む様々な食品表示制度の問題点を指摘した市民活動によるロビイングの成果として、2013年の国会で「食品表示法」が成立した際に、表示基準の見直しを検討する機関の設置を、との付帯決議が採択された。
消費者庁はこの決議をふまえ、2017年に遺伝子組み換え表示制度のあり方について初の検証・検討の場となる「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」を設置した。業界団体・消費者団体・学識経験者で構成されたこの検討会が2018年に報告書を取りまとめた。
そのなかで、加工食品原料の大豆・トウモロコシについて、任意表示である「遺伝子組み換えでない」の条件を、「意図せざる混入率5%以下」から「不検出」に引き下げるとした。この結論に基づき消費者庁は食品表示基準を改定し、2023年4月に施行される。
非遺伝子組み換え大豆・トウモロコシは、アメリカをはじめとする海外で種子から育て、分別生産流通管理して日本に輸入される。サイロ・トラック・大型輸送船を使い、何段階にもわたる積み替え作業がある。大豆・トウモロコシの保管・輸送施設は、過去に保管・輸送した遺伝子組み換え作物がわずかに残ることもあり、途中で意図しない混入が起こる可能性は大きい。
事実、消費者庁の調べによれば、分別生産流通管理して米国から輸入した大豆の意図せざる遺伝子組み換え混入率は平均0・1%、トウモロコシでは平均1・0%というのが実態だった。この実態をふまえ、これまでは「意図せざる混入率5%以下」であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示することが可能だった。
この混入実態に照らすと、分別管理した輸入大豆・トウモロコシでも「不検出」はかなり難しい。したがって、それらを原料とした加工食品であっても、2023年4月以降、「遺伝子組み換えでない」の表示が事実上できなくなる。事業者は、「分別生産流通管理」を適切に行っているという任意表示に変更するか、あるいは「表示無し」にするかの選択が迫られる。
残念なことに、前述の検討会では消費者団体の委員も、表示をより正確にするという理由で、「遺伝子組み換えでない」という表示を困難にする消費者庁の案に賛成した。
確かに、遺伝子組み換え問題に取り組む市民運動のなかでも、「意図しないとはいえ、結果的に混入率5%以下」でも「遺伝子組み換えでない」という表示では基準が緩すぎるので、EU並みの「0・9%未満」に厳格化すべきという意見はかねてよりあった。
しかし、食料自給率が高いEU域内なら「0・9%未満」という基準は実現可能だが、ほとんどの食品原料を海外に依存している日本で「5%以下」を認めなければ、日本の市場から「遺伝子組み換えでない」表示を駆逐するという負の結果を招くことになる。非遺伝子組み換え原料・飼料を米国からの輸入に極度に依存している日本の現実をふまえずに、机上の空論を良しとしてしまったことは今後、大きな禍根を残した。“ザル〟並みの表示制度だったとはいえ、今後は「表示無し」の食品が増えることが予想されるからだ。
(P.92-P.95 記事抜粋)