書評②
『13歳からの食と農 −家族農業が世界を変える』関根佳恵 著(かもがわ出版2020)
食と農に関する課題解決のカギは、家族農業にある
日本女子大学名誉教授 植田敬子
タイトルに「13歳からの」とあるように、本書は中学生にでも理解できるように食と農を取り巻く現状と課題を分かりやすく解説し、課題解決のカギは家族農業にあると説く。昔から現在に至るまで農業の中心は家族農業であるが、日本では一貫してそれを古くて遅れたものと見なし、家族農業・小規模農業を推進する政策は見当たらない。そもそも農業は産業として重要視されてこなかったために、農業を将来の仕事として目指す若い人は日本ではきわめて少数派である。
世界に目を向けると日本と異なる興味深い潮流があることを本書は教えてくれる。2008年に世界農村フォーラムというNGOが同年に起きた世界食料危機を受けて、新自由主義的政策から家族農業を重視する政策への転換を求めたところ世界中に支持が広がった。
また同年ビア・カンペシーナ(スペイン語で「農民の道」)という国際農民組織も「男女の農民の権利宣言」を発表した。これらの農民運動や市民運動に呼応した科学者たちが世界銀行や他の国際機関(FAOやWHO等々)および58ヶ国の政府をも巻き込んで2009年に研究プロジェクトを発足させ報告書をまとめた。報告書が求めたのは、化学肥料・農薬に依存した工業的農業から生物多様性と地域コミュニティを重視する農業(アグロエコロジーと呼ぶ)への早急な方向転換であった。
このように農民運動・市民運動が国際政治を動かした結果、国連では2014年を「国際家族農業年」、2019年から28年までを「家族農業の10年」と決めた。日本も共同提案国となっているが日本の動きは世界の潮流とはむしろ逆である。2009年に農地法を改正して企業が農業に参入しやすくし、その後も企業の農業参入を応援している。2019年には3669の法人が全国で農業に参入したという成果が農水省のHPで公表されている。
(P.51-P.52 記事抜粋)