生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

③私たちはなぜ政治にかかわるのか、どうかかわっていくべきか
(東京工業大学リベラルアーツ研究教育員教授 中島岳志)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

「左」や「右」といったイデオロギーを超えて本来の政治を取り戻す

 

―同志というより、異なる意見を持つ人と出会うことが大事なんですね。

 

 そう思います。いまどき、「右」とか「左」という概念やイデオロギーははやりませんが、私は左派の思想にずっと疑問を持ってきました。なぜなら、左派の人たちは正解の所有をしたがるから。「これが正しい。だから、この正しい運動をやるべきだ」と言い始めるんです。私は、この延長上に共産国家があると思っています。  旧ソ連にしても中国にしても、あらゆる共産国家は、思想の弾圧や粛清をしてきました。〝間違えているやつら〟を見つけたら、一方的な暴力によって葬り去ってきたのです。左派の市民運動の悪癖もここにあって、「これが正しい」となると、異論を受け付けないところがあると思います。

 それに対して右派、なかでも保守の方はというと、人間は間違いやすい動物だという考え方が前提にあり、特定の革命家の理論に基づいた社会設計を疑います。それよりも無名の人たち、死者たちが歴史の風雪に耐えて残してきた価値観、経験値、良識みたいなものを大切する。ただ、世のなかはどんどん変わっていくので、少しずつ手を入れながら〝永遠の微調整〟をやっていく。そして、自分が言っていることは間違っているかもしれないから、意見の異なる人の言い分にも一応耳を傾ける。傾けてみた結果、「なるほど、あの人の言っていることにも一理ある」となれば、合意形成をしていくのが本来の保守政治です。

 ちなみに私は、もともと自民党支持で、自民党の本来の〝リベラルな保守〟にしっかりと政治をやってほしいと思ってきました。しかしいま、保守と言っている人たちにはその要素が全く見受けられないことに、苛立ちを感じています。むしろ、生活クラブのほうが、良質な保守と言えるのではないでしょうか。

 左派も大きく変わりました。ひと昔前は、科学的合理主義が台頭し、人間の力によって環境を克服するとか、核の平和利用ということで、原発にも賛成だった時期があったのです。しかし、1968年あたりから、「それって無理があるよね」という思想が、ヒッピームーブメントなども相まって多方面から入ってきた。そして、1970年代以降、左派は大きく変容しました。地球環境や世界平和という問題と向き合ったとき、むしろ左派のほうが伝統主義へとシフトチェンジしたのです。  昔の人たちは、日本の里山で自然環境と上手に折り合いをつけて生きてきました。左派の人びとは、そのシステムを古い叡智から学ぼうという方向に転換していきました。農薬をなるべく使わない農業や、土木関係もそうですね。巨大なダムを作るのではなく、どうやって治水してきたかといったことを歴史の叡智から学ぶことについては、むしろ左派の感性のほうが鋭くなっていったのです。

 そうなってくると、基本的には保守思想に進んでいく。それはよろこぶべきことだと思います。長い年月をかけ、たくさんの人たちが合意形成をしてきたことのなかに大切なものがあるということを軸に、「右」「左」を超えて連帯していく。イデオロギーを超えて、本来の政治を取り戻す時代が来ているのではないでしょうか。先人たちの知恵や文化を大切にしている生活クラブがそういう場になっていけば、本当に素晴らしいことだと思います。

(P.41-P.42 記事抜粋)

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