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北欧の地方議会を取材していて感じること (鐙<あぶみ> 麻樹:ジャーナリスト・写真家)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

 この原稿を書いている頃、アイスランドでは5月14日の統一地方選挙に向けて大きな盛り上がりを見せていた。アイスランドの人口は37万人、結果、ひとりひとりの1票の重さを実感しやすい。とはいえ、2021年の国政選挙の投票率は、コロナ禍にも関わらず80・1%。5月14日の地方選挙は61・1%だったことを考えると、地方選挙の投票率は高いとはいえない。国政選挙と比較すると、地方選挙では投票率が若者を中心に低くなりがちなのは、北欧諸国全体の課題だ。
 偉そうなことは言えず、私自身も、日本に住んでいた頃は選挙や政治そのものにあまり関心を抱いていなかった。だがノルウェーに移住してから選挙を取材していくにつれて、自治体政治の面白さや重要性を理解するようになった。そういえば、そもそも私がノルウェー政治の入門として最初に足を突っ込んだのも地方選挙で、首都オスロの地方議員との交流が取材で始まり、地方選挙を熱心に分かりやすく伝えるノルウェーの報道がきっかけだった。

 

国会で実現したいことは、まずは「じわじわと」地方から

 

 まず、ノルウェーでは国政選挙に比べて、地方選挙では「ギャンブル」や「サプライズ」が起きやすい。国政レベルではまだ実現が難しそうな取り組みや政策は、最初に地方レベルで起きて「実験」され、「その取り組みも意外と悪くないな」とじわじわと広がる。全国各地の市民も、ニュースやSNSを通して新しい政治傾向に慣れてくる。
 取り組みは別の自治体へと広がり、影響の波はいつか国会・政府に届くこともある。変化を起こすなら、まずは自分たちの周辺から。国の制度や国民の価値観やライフスタイルを変えるという大きな目標があるなら、まずは手始めにより小さい規模の地方議会から起こしていくのが得策なのだ。例えば同性カップルの権利を保障する制度などは、自治体レベルで発祥して全国各地へ広がっていった。ノルウェーでは18歳以上の人に投票権があるが、16歳の投票権実現の可能性もしばしば議論となる。すでに16歳の投票実験はいくつかの自治体で、地方選挙の時期に合わせて行われている。
 また大都市での議会のトレンドは他の自治体や国会を刺激しやすい。首都オスロでいうと、街中心部への車の乗り入れを制限するカーフリー制度、事業ごとの二酸化炭素排出量を数値化して議会の予算案に明記するなどの取り組みは続々と他の自治体の議会が参考にして真似をしている。デンマークの首都コペンハーゲンの自転車道の普及は、今や国際的にも有名な地方政治の成功例だ。
 「じわじわと」。これは地方議会や地方政策を理解する鍵となる言葉なのかもしれない。

 

自治体同士の交流、体験の共有が大きな力となる

 

 ノルウェーでは頻繁に様々な企業や政治家が集合するカンファレンスやイベントが開催される。その時に自治体同士が集まり、真似したい・さらに波及させたい政策について、互いの体験談や学びを共有することも多い。単に体験談をパワーポイントで発表するだけではなく、ワークショップという形で話し合い、アイデアにさらに磨きをかけ、何かを学ぼうとするケースが多い。こういう時はテーブルに企業・団体・政治家が共に座り、楽しそうに話をしている。「政治って、こうして皆で作っていくのかあ」と、自治体政策の重要性と楽しさが、私の中でもじわじわと浸透していくわけである。

 

市民や若者と距離が近い北欧モデル

 

日本に住んでいた時、私にとって政治は遠いものだった。自分が出身地の秋田県の政治に何かしら影響を与えられるなんて思ったことがなかった。秋田の政治家にそもそも対面で会ったこともない。北欧だとイベントや学校に政治家がわざわざ足を運んで、市民と必死に交流しようとする。
 本誌の今回のテーマは「地方議会」だが、地方議会の現場は市庁舎など議会だけではない。北欧の自治体政治家は、とにかく必死に議会の外に「お出かけ」して市民や若者と交流しているのだ。地方議会の存在は身近なために、市民も何かあると抗議グループなどをSNSで作り、メディアも利用して発信し、地方議会で進行中だった議論が大きく舵を変えることもある。

(P.110~P.114 記事抜粋)

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