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いまも被害者を追い詰める国、東電、自治体の無責任
宇都宮大学国際学部教授 清水奈名子)

【好評発売中】季刊『社会運動』2023年4月発行【450号】特集:原発ゾンビ ―再稼働なんてありえない

─原発事故直後から、避難者の聞き取りを始められたのはなぜですか。

 

 東日本大震災では、私が勤めている大学がある栃木県宇都宮市も震度6強で相当揺れ、地震の被害もかなりありました。
 地震の後に原発事故が起きると、宇都宮市でも福島県からの避難者で体育館がいっぱいになっていました。胎児を含めて子どもたちは、大人よりも放射線の健康影響が大きいことから、お子さんや妊産婦さんは、避難指示が出ていない地域からも避難していました。
 私も事故当初は大学の同僚とともに避難者支援にかかわっていたのですが、やがて避難者の声を記録に残す必要性を感じて、女性の研究者や当事者の方がたとともに、乳幼児や妊産婦がいる世帯への聞き取り調査を始めました。そして、被害者の課題やニーズを行政や支援団体に伝えたり、被害をめぐる様々な問題を論文や著書にまとめて発表しています。

 

声を上げる被害者へのバッシングが止まらない

 

─被害者はいま、どんな状況に置かれているのでしょう。

 

 残念ながら、東京電力(東電)福島第一原発の事故によって放出された放射性物質は、福島県境を超えて広域を汚染しましたが、避難指示が出たのは福島県内の一部にとどまりました。その結果、避難した人びとだけでなく、汚染を受けた地域に暮らし続けた人びとも、被ばくによる健康影響に不安を抱えながら過ごしてきました。
 原発事故で甲状腺がんになったと訴える福島県内に住んでいた若者たちの裁判も現在、行われています。また事故直後には、事故前にはなかった身体症状が出た人びとの話も、数多く聞いてきました。
 いずれも事故との因果関係は証明できませんが、望まない被ばくを経験した人びとは、健康に影響が出るのではないかと不安に思う気持ちを抱えています。
 しかし声を上げる被害者へのバッシングが止みません。「復興が進んでいる」という政府や東電の発表、それを受けた報道を見て「事故から10年以上経って、避難指示が解除され、賠償金も支払われたと言うし、もう終わった」と思う人びとのなかに、実際には被害が続き、汚染が心配で避難している人たちに対し、「福島に帰って地域復興に尽力している人も大勢いるのに、いまだに被害を言い募る人たちはお金が欲しいだけなのではないか」「単に反政府運動をしたいのでは」などと、クレーマー扱いする人もいます。
 匿名で投稿できる会員制交流サイト(SNS)には、こうした被害者へのバッシングが特に多く見られます。自民党の石原伸晃環境大臣(当時)が、2014年に中間貯蔵施設の建設をめぐって「最後は金目でしょ」と発言したこと、また2017年に今村雅弘復興大臣(当時)が、避難指示区域外からの避難者について「ふるさとを捨てるというのは簡単」と発言したことなども、被害者バッシングを助長する空気をつくってしまったと思います。
 このように被害者を追い詰めた最大の原因は、東電、国、自治体による「無責任」であり、これが被害を増幅させました。

(P.49-50記事抜粋)

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