原発事故の汚染水を薄めて海に流すな
(国際環境NGO FoE Japan事務局長 満田夏花)
燃料デブリの冷却水と地下水により発生する〈汚染水〉
─東京電力福島第一原発事故に伴い発生している汚染された水の海洋放出を政府は決めています。この水はどのようなものなのでしょうか。
この水がどのようなものなのか、どの放射性物質がどの程度残留しているのか、十分説明されていません。
まずこの水の発生メカニズムですが、図のように、原発事故により溶け落ちた燃料デブリを冷却するための水と、原子力建屋とタービン建屋に流入する地下水とが混ざり合って発生します。事故当初は1日当たり400?くらい流れ込んでいましたが、凍土壁を作ったり、上流で汲み上げた水を下流に流す地下水バイパスなどの対策によって、現在では140?とか、もっと減ったというニュースも目にしています。凍土壁については後で触れますが、水を通しやすい透水層をしっかり食い止めておらず、あまり役立っていないと指摘をする研究者もいます。いずれにしても、いまでもかなりの量の水が流れ込んでいて、一部を燃料デブリの冷却に再び使っているものの、建屋の外から流れ込んでくる水をシャットアウトしない限り、新たに生まれ続けることになります。なお、処理されていても放射性物質が残留しているため、私は「処理汚染水」と呼んでいます。
処理されても汚染されている!
この水を、62種類の放射性物質を除去するとされる多核種除去装置(以下、ALPS(アルプス))で処理し、サイト内に順次建てているタンクに貯蔵しています。政府や東京電力ホールディングス㈱(以下、東電)はALPSで処理した水であることから、これを〈ALPS処理水〉または単に〈処理水〉と呼んでいます。そして貯蔵するためのタンクを建てる場所がなくなりつつあるので、政府は海に放出することを決定し、東電がその計画を進めています。
東電が発表している情報をまとめると、この水は現在126万?がタンクに溜められていて、そこにトリチウムという放射性物質が780兆ベクレル含まれている上に、タンクの水の67パーセントで、トリチウム以外の放射性物質、例えば骨に蓄積されるストロンチウム90、半減期が1570万年もあるヨウ素129、他にもセシウム137や、様々なプルトニウムなどが全体として環境基準を超えて残留しています。政府による〈処理水〉の定義では「トリチウム以外の放射性物質は基準を下回っていること」となっているので、タンクに溜められている7割近くは、実は〈処理水〉ではないのです。
タンクのすべての放射性物質は非開示
さらに東電は、残留している核種をすべてのタンクで測っているわけではありません。タンクは複数のグループで管理されていて、三つのタンク群について62核種とトリチウム、そして炭素14を測定し公開していますが、その他のタンク群については、主要な核種以外は測定すらしていないのです。私たちはタンクの中の水に、どのような放射性物質が、総量としてどれくらい含まれているのか、東電に情報公開を求めてきましたが開示されませんでした。意図的に拒んだわけではなく、全部を測っていなかったので開示できなかったということのようです。東電は海洋放出をする前にトリチウム以外の基準を超えている放射性物質については、基準値以下になるまでALPSで二次処理をする、30核種について測って順次公開していく、と言っています。言い換えれば放出された放射性物質の総量は、放出が終わるまでわからないということなのです。何をどれだけ放出するのかという基本的な情報すら開示されない状況で、海洋放出が始まろうとしているのが現状です。
(P.62-64記事抜粋)