①介護保険は、サービス抑制と負担増をめぐる攻防に
(市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰 小竹雅子)
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介護保険制度、過去の変化
主要サービスの削減が続いた
日本は2007年、高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)が21%を超える「超高齢社会」になり、2022年には29・1%まで上昇した(注1)。
世界有数の「超高齢社会」で際立つのは、75歳以上の「後期高齢者」が高齢者人口の過半数を占めていることだ。2022年に「団塊の世代」が全員75歳以上となったので、今後も後期高齢者が増え続ける構図にある。なお、高齢者の57%、後期高齢者の61%は女性だ。
高齢者の増加とともに介護ニーズが拡大する危機感を背景に、2000年度から介護保険制度が始まった。加入者(被保険者)は介護が必要と判定(要支援認定、要介護認定)された場合に、サービスが個別給付される。制度は「利用者本位」を掲げ、認定者が必要なサービスを選択できるとしている。
だが、介護保険法の改正と、3年ごとに見直される介護報酬・基準の改定は、利用者の選択肢を少しずつ狭める「給付抑制」を続けている。
例えば、給付の対象になるサービスは在宅と施設に大別されるが、利用者の8割は在宅サービスを選んでいる。かつて、在宅サービスで利用者が多いのは、ホームヘルプ・サービスとデイサービスだった。だが、2014年改正で、要支援認定者(要支援1と2)への給付は削除され、市区町村(区は東京23区)の地域支援事業に移された。ホームヘルプ・サービスは第一号訪問事業、デイサービスは第一号通所事業に変わった。
給付と事業の大きな違いは財源確保だ。給付は認定者とともに費用が増えれば、政府には財源の確保が義務づけられている。
だが、市区町村の地域支援事業は費用に上限がある。要支援認定者が増えても、市区町村は予算の範囲でやりくりを求められる。
なお、現在、在宅サービスで利用者が一番多いのは福祉用具レンタルで、二番がデイサービス、ホームヘルプ・サービスは三番手となった。
(注1) 総務省統計局『人口推計』
要介護認定と給付
特別養護老人ホームは要介護3以上が原則に
施設サービスは、最初から要介護認定者(要介護1~5)に給付が限られていた。特別養護老人ホームは、在宅での介護が限界になり入居を希望する人が多く、2014年、待機者は52万人まで増えた。だが、同年の改正で、要介護1と2の人への給付は削除され、要介護3~5が基本になった。なお、虐待などやむを得ない事情がある場合は要介護1と2でも「特例入所」が認められる。この見直しとともに、待機者も要介護3以上しか数えなくなったので、29万人(2019年)に減少した。
本稿では2024年度からの第9期(2024~26年度)をめざし、昨年から社会保障審議会で議論されている「給付と負担」について報告する。
これからの介護保険
五つの継続審議
介護保険制度の見直しは、厚生労働大臣が社会保障審議会に諮問する。介護保険法(省令などを含む)については介護保険部会(菊池馨実・部会長)、介護報酬・基準については介護給付費分科会(田辺国昭・分科会長)が答申の準備を担当する。
(P.13-P.15 記事抜粋)