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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

②労働基準法を守れない介護保険は違法な制度だ
(介護福祉士・ホームヘルパー国賠訴訟原告・はたらく女性の全国センター会員 伊藤みどり)

【好評発売中】季刊『社会運動』2023年7月発行【451号】特集:長生きしたら、どうしよう? ―崩壊する介護保険制度をたてなおす

ほとんどの事業者が労基法違反

 

―介護保険制度の欠陥とは具体的にはどのようなことですか。

 

 介護報酬は、実施したサービスに対して「出来高払い」になっていることが問題です。当然ですが、訪問介護では急な入院や体調不良、あるいは認知症などで予定を忘れて外出してしまうなど、突然のキャンセルが頻繁に起こります。けれども、介護報酬はキャンセルになったサービスについては支払われません。これでは事業所がヘルパーを正社員として雇用することが難しいので、登録ヘルパーとして採用することになります。
 ホームヘルパーの業務では、必然的に訪問先への移動時間や待機時間が生じますが、ほとんどの事業所でそれらの時間については賃金が払われていないという問題も起きています。通常、訪問先のトイレは使用できないので待機時間にトイレに行ったり、業務報告を書いたり、近くの公園や次の訪問宅の前で時間が来るのを待っていたり、雨の日はカッパを着たり脱いだりします。本来それも含めて労働時間になるはずです。
 私たちは実践女子大学人間社会学部教授の山根純佳さん(76ページ参照)の協力を得て、2020年に登録ヘルパーを対象にウェブと郵送によるアンケート調査を実施し、683人から回答を得ました。労働基準法では、予定されていた仕事がキャンセルになった場合、労働者には60パーセントを休業補償として支払うよう定めていますが、キャンセル時の休業補償や移動時間について労働基準法どおりに払っている事業者は1件もありませんでした。つまり、労働基準法違反なのです。
 厚労省は、休業手当も待機時間や移動時間に対する賃金も、介護報酬に含まれていると言います。それだけでなく、事業所長、サービス責任者や事務担当者の人件費、事務所の家賃や光熱費など、事業所を維持するための経費も、すべてヘルパーが働いた介護サービスに対する報酬でまかなう制度設計になっているのです。
 介護事業は支出の大半を人件費が占めます。コスト削減のために、ほとんどの事業所ではヘルパーに賃金を払うのは介護サービスを実施した時間だけです。私たちが実施したアンケート調査によると、ホームヘルパーの月額の平均賃金は5万5000円程度です。移動や待機などの拘束時間が労働時間に反映されないために、1日当たりの実労働時間が平均3・6時間と短いからです。

(P.89-P.91 記事抜粋)

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