生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

7年間介護事業所を運営してきた筆者が書く「介護の闇」

 

生活クラブ生協・東京 前理事長 増田和美

1993年、豚肉のおいしさに惹かれて、生活クラブ生協加入。北東京ブロック単協理事長を経て
2013年東京単協副理事長、19?23年理事長。生活クラブを拡げる活動を推進中。

 

 日本の総人口は、2022年10月1日現在(総務省・人口推計)で1億2494万7千人、前年に比べ55万6千人の減少です。一方で65歳以上人口は3623万6千人で、前年より2万2千人の増加となり、割合は29・0パーセントで過去最高となりました。また、75歳以上人口は1936万4千人で、前年より69万1千人の増加となり、割合は15・5パーセントで過去最高です。2年後に迫った団塊世代が75歳となる2025年には、超高齢化社会を迎えます。
 2040年には現役世代の急減により、介護・福祉における人手不足、社会保障費のさらなる増大が懸念されているなかで、誰にとっても介護は他人ごとではなく、これからの「大介護時代」を考える上で欠かせない事柄となっています。
本書は介護の現場で何が起きているのか、起こったのか、さまざまな事例から介護の現状を伝え、考えさせられる内容です。プロローグから第7章までの仕立てで、それぞれ介護業界の過激な実態が書かれています。
 7年間介護事業所を運営してきた筆者が取材をしていることを考えると、書かれていることは現実と受け止めて読みましたが、記述された介護の世界はあまりにも闇が深く、驚愕と違和感を抱きました。

 

豊かな介護という幻想は捨てたほうがいい

 

 プロローグ:給与を支払わない劣悪、悪質な介護事業所の増加により、家庭崩壊そして精神を病み人生を壊されたシングルマザー。
 第1章:業務のストレスやブラック労働の激務から脳出血で倒れる女性施設長。後遺症で仕事復帰が困難に。風俗と売春で収入を得るが生活困難。それでも介護職を希望。
 第2章:過剰労働で低賃金のため貧困が固定される。ダブルワークやトリプルワークによる無理のしわ寄せが子どもへの暴力、そして家庭崩壊へつながる。
 第3章:生活全般にわたる全面的介護が必要な高齢者が、身体拘束や居室拘束状態に。劣悪な生活状態は高齢者への虐待や介護放棄へ。モンスター家族に追い詰められ、介護士は人材不足もあり精神負担に陥り虐待、窃盗、殺人へ追い込まれる。
 第4章:介護の社会性を利用して現実を隠し、若者や求職者を介護職に誘導しようと洗脳をする。
 第5章:死と直面している介護によって性への異常な執着が。介護職で精神を壊される。
 第6章:暴力団組織直営の介護事業所で、不正請求や助成金詐欺を行い、高齢者の資産を狙う。介護職員の覚醒剤常用。法務省コレワーク(矯正就労支援情報センター)業務開始で元受刑者を介護職へ誘導。
 第7章:地域包括ケアシステムにより、認知症高齢者の事故や高齢ドライバーの事故など見守りが必要。
 筆者は、最後に「豊かな介護みたいな幻想は捨てたほうが良い」と締めくくっています。高齢化率が高まり、今後さらに介護職を担う世代の減少で人材不足は大きな課題となるでしょう。本来、介護職は技術や医療知識を備えた専門性のある職業ですが、社会的にその専門性や魅力が伝わらず、逆に過酷な状況や貧困、不幸などを招く人生を狂わす負の職業として捉えられています。
 介護ロボット、介護のICT化の活用など生産性の向上をめざし現場の改新をすすめることは大事ですが、介護士の労働改善、特に女性や若者の介護職員の処遇改善など離職者をなくすための環境整備は待ったなしです。夢を持って介護職に就き、真面目に働いたことで、逆に人生を狂わせられるという悲劇をこれ以上生まないようにしたいものです。

(P.108ーP.109 記事全文)

インターネット購入