「問題の根源はデジタル化ではなく政治」【後編】
(鐙<あぶみ> 麻樹:ジャーナリスト・写真家)
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前号では「デジタル化とジェンダー平等」と題して、デジタル化によって減る面倒な作業、家庭で事務をしていた女性が得るかもしれない自由と時間、女子のIT教育について触れた。デジタル化が進んでいるとされる北欧社会だが、実はほぼ毎日、デジタル化された暮らしではなんらかの「エラー」や「リスク」と共存している。
ちょうどこの原稿を書いている時も、スカンジナビア航空がサイバー攻撃にあい、ユーザーがログインすると他人の個人情報が丸見えだと、大ニュースだ。では今後スカンジナビア航空のユーザーが減るかというと、そんなことはないだろう。
問題の根源はデジタル化ではなく政治。議論の焦点を移そう
北欧社会と同じような信頼カルチャーを他国でつくるのは相当の時間がかかるだろうし、競争社会や上下関係の傾向が根強い日本では無理かもしれない。だが、現状を変えることはできる。マイナンバーカード制度などへの不満や不信感は、日本の政治体制への不信感の表れでもあるし、高齢者を大事にする社会だからでもあるだろう。信頼できるような政治家や社会構造に変えていくには政治から距離を置かずに、政治が嫌になることもあるかもしれないが、それでも政治に近づいていく一歩が必要なのだと思う。
世界はデジタル化の道を止めないだろう。片や、未だにFAXや印鑑を使い、オリジナル書類の郵送を求める日本を見ていると、大丈夫なのだろうかと不安に感じることもある。その小さな作業の積み重ねは、あなたの貴重な時間とエネルギーをどんどんと奪っている。不安点もあるかもしれない。だが時にはテクノロジーに処理を任せて、その分あなたは自分のスキルが発揮されるタスクに集中し、自由な時間を手にしてもいいのではないか。マイナンバーカードなど、デジタル化される社会を問題視するよりも、根源が政治と市民の距離感や不信感、社会構造や政治家のスキルにあるのなら、議論の焦点を移してもいいと思う。
デジタル化に待ったなしの北欧で生活していると、「おいおい」と思うことも頻繁にあるが、それでも数年前に戻りたいとは一切思わない。変化が起きる過程では多くの議論やエラー・改善の繰り返しが連続することを、北欧の市民は容認している。デジタル化で得る自由があるからこそ、デジタル化の道をやめないのだろう。
(P.110-P.111、P.115-P.116 記事抜粋)