脱原発の視点から電力自由化を考える(イージーパワー株式会社代表取締役 竹村 英明)
消費者として私たちにできること
[1]100%再生可能エネルギーの電気は買えるのか
2016年4月から、いよいよ電力小売自由化で、「これでやっと再生可能エネルギーの電気が買える…」と思っていた皆さんは、がっかりされたかもしれません。でも、ドイツでもスペインでも、同じような過程を経て、再生可能エネルギーが電力供給の%を占めるような、今の状況をつくりだしてきています。
再生可能エネルギーを活用したい者にとって、問題は山積ですが、問題が明らかになれば、解決する道も見えてくるはずです。最初から100%は難しいかもしれませんが、それを乗り越えるのは消費者次第とも言えます。
新規参入を目指した「新電力会社」の登録数は800を超えていますが、事業申請し承認されたのはまだ210社です(2016年3月7日現在)。事業申請をするには、供給側発電所と契約し、需要側の顧客を持ち、需給調整を行う仕組みを持ち、それを安定して動かしていく資金力も持っていなければなりません。そう簡単ではないのです。
ドイツでは電力小売自由化の当初、託送制度などがうまく機能せず、100社にのぼる新規参入企業のほとんどが倒産しました。それでも現在は、託送料金の厳しい制限などの制度改革の結果、1000社を超える電力会社と多様なメニューの国になりました。一時は大手企業による寡占という問題もありましたが、今は市民による小売会社などがそのシェアを奪っています。
荒波を生き残った会社の一つ「ナチュアシュトローム」は、1万人の顧客を最初に獲得できたのが、その理由だとしています。「ナチュアシュトローム」は、再生可能エネルギーの電気だけを供給するというのが、発足当初からのコンセプトでした。託送料金が適正になった後は、順調に顧客を伸ばして、今では万人の顧客を抱える会社となっています。
日本でも、いくつかの自治体、生協、太陽光発電などのエコ企業が、地産地消の可能な、再生可能エネルギーを活用し、電力小売参入を打ち出していますが、まず1万人規模の顧客を獲得することが重要だと思います。
[2]消費者から「パワーシフト」宣言!
ドイツでは固定価格買取制度により、電力の%が再生可能エネルギーになりました。ここまで到達したことで「再生可能エネルギー賦課金」による国民負担が大きくなり、今では再生可能エネルギーの伸びを制御するという政策に転じています。しかし日本ではまだ、再生可能エネルギーは電力の4%程度に過ぎません。それなのに早くも、再生可能エネルギーを増やすのではなく、押さえ込もうとしています。
日本では今、電力の小売自由化を前に、大手電力会社の激しい抵抗と、それに果敢に立ち向かう市民電力、地域事業という構図が生まれています。
大手電力会社の抵抗を跳ね返す力は、消費者自身にあります。消費者側から「これでは選択権がない!」「もっと再生可能エネルギーの電気を選べるように!」という声をあげることで、再生可能エネルギーを伸ばすための、より大胆な制度変更を求めることができるはずです。消費者の声は、まさに「需要」です。あきらめず、声をあげ、一歩一歩詰め寄っていきましょう。その第一のステップが、122頁で紹介する「パワーシフトキャンペーン」です。
[3]安易な広告に惑わされない消費者の選択を
第二のステップは、実際に「選ぶ」ことです。すでに電力会社のCMが本格的に始まっています。しかしよく目を凝らして下さい。
全発電設備容量の大部分は大手電力会社が所有しており、その電気は、大手電力会社とは別の顔をして売られたりしています。例えば、携帯電話各社のセット売りは基本的に東京電力など大手電力会社の電気です。ガス会社やコンビニの電気も、他の大手電力会社から仕入れたものだったりします。大手石油会社や商社の参入もあります。独自の発電所で比較的環境に優しい電気なのですが、会社としては大量の石炭を輸入したり、石炭火力を輸出したりしています。そんな状態で「低価格の電気」とは何を売るのでしょうか。さらに、九州や関西地方だと「原発混じり」かもしれないのです。
ここで紹介した電力小売自由化の仕組みについて、理解をしっかり深めてから、再生可能エネルギーを提供しようとがんばっている新電力会社を選んでください。再生可能エネルギーはあの手この手で売りにくくされていますから、これらの会社は4月1日からすぐに家庭用の電気を販売できないところがほとんどです。なにも4月1日から切り替えなければいけないということではありませんから、「パワーシフトキャンペーン」のホームページなどをよく読んで、考えてみてください。
(記事から抜粋 P73~P76)