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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

脱原発とCO2削減に向けた電気の共同購入 ((株)生活クラブエナジー代表取締役/生活クラブ生協神奈川専務理事 半澤彰浩)

季刊『社会運動』 2016年4月号【422号】 特集:市民が電気を作る、選ぶ

Ⅱ電気の共同購入はどんな課題を解決するのか

 

Q 生活クラブの電気の特徴はどういう点ですか。通信会社やガスや石油などのエネルギー関連企業が参入し、売ろうとしているものと、何が違うのでしょうか。

 生活クラブのエネルギーの取り組みの第一は、先述のように、「省エネルギーを柱とする」こと、そして、「原発のない社会」、「CO2を減らす社会」をつくることです。そのためには、「電気の価格や送配電の仕組みを明らかにする」ことが重要です。しかし、電気の仕組みは非常に複雑でわかりづらいのが現状です。私たちの日常生活では、コンセントに挿せば電気はすぐに使えますから、なかなか意識はできません。そこで、このわかりづらい仕組みを明らかにしていきたいと考えています。
 (株)生活クラブエナジーは、生活クラブグループが100%出資する会社ですから、電気の共同購入も消費材の共同購入と同じ考え方で取り組みます。その基本的な考え方は、「原料、生産方法、生産者を明らかにして適正価格で」ということです。例えば、供給する風力や太陽光、水力の電気は、どこで、どんな人が、どのようにつくった再生可能エネルギーなのかを明らかにし、発電にかかるコスト、原価も全部公開し、発電源を重視します。
 例えば食品の場合には、遺伝子組み換え作物を使わないことが生活クラブの方針ですので、加工食品などでは一次原料だけでなく、調味料などの二次原料まで遺伝子組み換えを使っていないかどうかも調べ、原料の由来とコストを明らかにしていますが、それと同様です。そして、電気の共同購入も、食べ物と同様に、地球環境や生物への負荷が少ないもの、国産を原則にしていますから、日本では「再生可能エネルギー」しか国産でできるエネルギーはありません。
 こうした電気の共同購入を通じて、再生可能エネルギーを生み出す産地と連携し、組合員が電気を利用することで、その産地を応援する仕組みです。
 生活クラブとして初めて行う事業であることと、事業規模と経営安定を考えて、電気料金は既存の電力会社の料金とほぼ同じ価格でスタートしますが、再生可能エネルギーの電源を明らかにすることが大きな違いです。
 電力の小売自由化でたくさんの企業が参入し、宣伝が開始されていますが、ほとんどが値引きを基本としたもので価格競争になっています。例えば携帯電話やガスとのセット割引き、ポイント制など、電気をたくさん使う人ほど値引きするようです。しかし、電気をたくさん使うように値引きに焦点を当てて誘導することは、原発再稼働につながる危険があります。生活クラブでは省エネを軸にしているので、電気をたくさん使う人ほど高くなる三段階制を電気料金の基本にします。

 

Q 米や農産物などの産地提携はイメージしやすいですが、「電気の産地提携」とはどういうことなのでしょうか。また、「電気の適正価格」とはどういうことですか。

 2012年から秋田県にかほ市で稼働している生活クラブ風車「夢風」では、ただ風車を1基作って発電しているだけではなく、地元の人たちとの交流も行っています。最近では風車の立っている地域で、加工用トマトを栽培して生活クラブのトマトケチャップの原料として出荷するというチャレンジも行われています。風車による発電だけではなくて、人や物の交流にもつながっているのです。生活クラブ風車で生まれた電気事業の剰余金は、産地との交流や、トマトの栽培、特産品の共同購入など、人的交流も含めた費用に充てています。秋田県にかほ市と首都圏の4つの生活クラブ生協(東京・神奈川・埼玉・千葉)は、「地域間連携による持続可能な自然エネルギー社会づくりに向けた共同宣言」を締結し、その宣言のもとに、「にかほ市・生活クラブ連携推進協議会」を設置し、様々な相互取り組みを進めています。生活クラブ風車そのものは発電設備にすぎませんが、そのご縁が人の交流、地域間の連携交流、特産品の取り組みなど、地域貢献につながっています。こうした取り組みはとても大切です。
 「再生可能エネルギー」は、太陽、水、風などの自然のエネルギーを利用する仕組みです。水や太陽や森林、風が豊かな地域は、農林水産業が豊かな地域と重なります。土、太陽、水、風がないと農産物も育ちませんから、再生可能エネルギーと農林水産業は似ている面があり親和性が高いのです。ですから、ドイツやデンマークでは、自然の豊かな農村地域で、農家の人が出資した再生可能エネルギーに取り組む協同組合が多数あります。
 生活クラブの米の主産地である山形県遊佐町では、太陽光発電や小水力発電の計画を検討調査中です。食べものの共同購入をしている産地にエネルギーの共同購入が重なることになるので、さらに提携関係が深まります。このように、環境や社会に配慮した品物やサービスを選択するエシカルコンシューマー(倫理的消費者)として、提携生産者が発電した再生可能エネルギーによる電気を共同購入することと、生産から廃棄までトータルに責任を持つことを、私たちは電気の共同購入やエネルギーの取り組みの原則としています。
 今まで、電気の価格は地域を独占していた大手電力会社が決めていたため、原発の費用も含め、まとめて原価として電気料金に反映させていて、その内訳は明らかにされませんでした。しかし、生活クラブの電気の共同購入では、原価を公開することを方針とします。
 今、皆さんの手元に届く電力会社の請求書には、「再エネ発電賦課金」(頁参照)の額は出ていますが、「原発賦課金」という項目はありません。今は管内の原発が稼働していないこともありますが、それでも本当は1当たり約0・73円の原発の費用が含まれています。原発が稼働していなくても維持にお金がかかるので電気料金に入っているわけです。「再エネ賦課金」で電気料金が高くなると言う人もいますが、私たちに知らされていないだけで、原発にかかる費用もこれまで相当払っているわけです。このように、既存の電気料金には、隠れて負担させられているものがたくさんあることを、生活クラブの取り組みとともに伝えていきます。

 

Q 生活クラブの電気でどの程度、再生可能エネルギーを手に入れられるのでしょうか。具体的な取り組み予定をお聞かせください。

 スタート段階のメニューでは、再生可能エネルギーの比率30~60%を基本設計として、開発・調達と合わせて段階的に広げていきます。実際に供給した後でないと太陽光何%、水力何%、という割合はわかりませんので、請求時に表示し公開するようになります。
 2016年10月から電気の共同購入を全国の生活クラブで始めますが、その前段として6月から、1500人の契約に限定し、東京、神奈川、埼玉、千葉で先行実施します。10月からは東京電力管内の組合員の3%、他の電力会社管内の組合員の5%を上限とし、2017年度は10%、2018年度は15%と、段階的に契約する人を増やし、それに合わせて再生可能エネルギーの開発を進めます。
 再生可能エネルギーの比率30~60%のプランでスタートしますが、30~60%と差があるのは、電力会社管内の地域によって手配できる再生可能エネルギーの量が違うので、どうしても差が出るためです。供給規模の拡大と事業安定をふまえて、組合員の意見を聞き、メニューの複数化を検討していきます。

(記事から抜粋 P89~94)

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