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市民セクター政策機構

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書評②『増補版 北海道の歴史がわかる本』
(桑原真人、川上淳 著 亜璃西社 2018年)

季刊社会運動 2015年1月号

北海道史に関心を持てば日本史全体への理解も深まる

 

市民セクター政策機構理事 宮崎徹

 

 北海道は、本州に住む人にとって一度は訪ねてみたい、ある種あこがれの地であるだろう(私も確か3度行きました)。学校で習ったアイヌや開拓史についてのおぼろげな知識はあるものの、訪ねてみれば、素晴らしい大自然、おいしい食べ物に圧倒されて終わってしまうかもしれない。
 しかし、この大きな島は、沖縄と同じく日本という国の存在を相対化し、歴史の襞を深く感得させる力を持っている。もちろん、沖縄との違いは大きいが、中央権力との関係性など類似点もあるだろう。ちなみに、本書でも紹介されているが、鎖国の江戸時代には外国に開かれた「4つの口」があった。最大の口はいうまでもなく長崎。2つめは朝鮮に向けて開かれた宗氏の対馬口。3つめは琉球を通した薩摩口。そして4つめが松前口である。松前藩はアイヌとの交易を通じて蝦夷地本島にとどまらず、樺太では中国、千島ではロシアとつながっていたのだ。いっそ観光的気分を乗り越えて、少しでも北海道の歴史に関心を持てば、その地域史の面白さだけではなく日本史全体への理解も深まるだろう。
 そうしたニーズにピッタリなのが本書である。そもそも刊行の意図が「北海道と周辺地域の歴史に関心があるものの、何から学んでよいか迷っている人…北海道の歴史に初めて触れるであろう読者を想定して執筆した」というものである。しかし、その基本的視点は確かなものだ。
 いわく、「北海道の歴史は、近代以降の『開拓の歴史』に矮小化されるほど、短くて新しいわけではない」。何万年も前から今日まで営々と歴史を刻んできている。北海道の人びとは、孤立、停滞していたわけではない。古くから周辺地域と活発な交流を繰り返してきた。「そうした意味でも北海道の歴史は、日本史や世界史のなかに正当に位置づけられねばならない」

 

歴史を面白く読ませるための工夫がすばらしい

 

 その刊行意図に沿っていろいろと工夫がなされている。全体は6つのパートに分けられている。その流れをつかむために各パートのタイトルを挙げておこう。1.黎明期~アイヌ・和人の相克(原始~中世) 2.松前藩の成立~クナシリ・メナシアイヌの戦い(近世Ⅰ) 3.ロシアとの接触~松前藩・蝦夷地の終焉(近世Ⅱ) 4.開拓使の設置~三県時代の北海道(近代Ⅰ) 5.北海道庁の設置~許可移民制度の始まり(近代Ⅱ) 6.戦時下の北海道~未来への視座(現代)
 各パートは10余りのトピックスによって構成される。つまり、それぞれのパートは単調な叙述ではなく、その時代をほうふつとさせる様々なトピックスで彩られている。そのテーマの選び出しが秀逸、的確のように感じる。興味深い話題もたくさん並んでいる。例えば、「屯田兵から旅役者に―兵村生活の実情と、ある屯田兵の話」といったように。
 ここでは北海道独立論を紹介しよう。その代表は河野廣道の『北海道自由国論』(1946年刊)であり、内地が封建的、独善的であるのに対して「自由主義的、開放的、普遍的、世界的」である北海道を対置している。そのうえで内地の日本政府と「北海道自由国政府」の連邦制が提唱された。著者によれば、今日では独立論の片鱗も見られないが、河野らの主張は「日本的なものに対する北方的なものの存在を主張している」という点で「依然として色あせていない」のだ。確かに、本州からの旅人であれば、訪れるたびに北海道は開放的で普遍的な感じかもしれない。しかし、著者はその反面で独立論は「北海道に植民した和人の主張にすぎない」ことにも注意を喚起している。
 ことほど左様に「中学生の副読本的な役割を持ちながら、大人の知的好奇心を刺激するもの」という編集サイドの難しい注文は、歴史学者によって見事に果たされている。

(P.104ーP.105 記事全文)

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