未来社会の基礎になる「使用価値」 (季刊『社会運動』編集長 白井和宏)
商品社会批判としての生活クラブ運動
いまから50年近く前の1965年。東京で牛乳の共同購入が始まり、生活クラブが発足しました。当初は、牛乳以外に、灯油や、合成洗剤(コープソフト)、化学調味料(生協の味)などのコープ商品を供給していました。しかしやがて、組合員にとって本当に必要なモノとは何かと考え続けるなかで、付加価値や希少性、高級さなどの「まぼろし」をアピールする「商品」の問題点に気づきます。
こうして組合員・職員と生産者とで、「使用価値」という現実に基づく「消費材」を開発するようになり、独自の「Sマーク消費材」を開発しました。
商品がもたらす社会的な問題に気付いた組合員の活動は、安全・安心な食べ物の開発にとどまりません。1970年代には、合成洗剤が川や飲料水を汚染していることに目を向け、「生き方を変えよう、加害者であることを止めよう」をスローガンに「合成洗剤追放=石けん運動」に取り組みました。商品社会に対する批判が様々な社会運動を広げてきたのです。
人間関係によって使用価値を広げる「つながるローカルSDGs」
しかし残念なことに、新自由主義が浸透した今日の社会では、公園や図書館といった公共サービスも民営化や再開発という名で商売の道具にされています。さらには、オリンピックやカジノ、万博といった「使用価値」とは無関係なイベントで一儲けをたくらむ企業が政治を動かしています。他方で、介護や配達などの「エッセンシャル・ワーク(人びとの日常生活に不可欠な仕事=使用価値が高い仕事)」は低賃金、長時間労働に置かれたままです。
つまり、あらゆる領域で「使用価値」が無視される一方、ひたすら利益を追求する企業によって、社会全体が商品化(商売の場)になっているのです。
この危機的な状況に気づいた世界各地の人びとは「使用価値」の意義を再評価し、「コモン(社会的に人びとに共有され、管理されるべき富)」を広げる運動を広めています。
生活クラブ生協が提案・実践する「つながるローカルSDGs」もその一つ
です。
いま、私たちは改めて使用価値の意義を考え、これからの生活クラブ運動をどのように進めていくのかを考えたいと思います。