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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

人と人がつながり、社会変革をすすめる生活クラブの「つながるローカルSDGs」(生活クラブ連合会会長 村上彰一)

【発売中】季刊『社会運動』2024年1月発行【453号】特集:まぼろしの商品社会 ―変革のキーワードは「使用価値」

─まず最初に、いまの資本主義社会の問題点は何でしょうか。

 

 資本主義は基本的に生産と消費の分離を促進させてきたといえると思います。生活クラブは創立以来、市場流通ではできない生産と消費のつながりをつくることに取り組んできました。一般の消費者は、お店に並んでいる食品のなかから欲しい物を選んで買っています。100円で売られているものに実は200円の生産コストがかかっていたとしても、その背後にある生産の実態を知らずに、安ければいいと思って選んでしまう。


 資本主義社会は、分業社会です。作る人は作る人、食べる人は食べる人、間に入る食品加工で働く人も卸業者や小売業の人も自分の役割だけです。分業する方が効率は上がるし、利潤も追求できるという考えです。
 また、生産者は消費者を直接知らないわけです。例えばお米の生産者は、どんな人が自分の米を食べているのかを知らない。農協に米を出荷したらそれで終わりです。消費者も同じで、その米がどんな生産者によって作られたのかは知らない。それがいまの大きな問題を生んでいます。


 生活クラブは「消費材(12ページ参照)」を通じてそのような社会でいいのか、という問題提起をずっとしてきました。生産にかかる時間と空間を消費者はきちんと理解する必要がある。その時間、空間にかかる費用、労働対価も含めた、生産原価を知ることが重要です。消費材が生産原価を下回る金額で供給されてはならないことがわかるはずです。

 

─近年、生活クラブが率先して取り組んでいるのが、「つながるローカルSDGs」ですね。なぜいま取り組む必要があるのかを教えてください。

 

 2022年から始まった、生活クラブの第7次連合事業中期計画で、私たちにとって、いま取り組むべき一番重要なことは、第一次産業の持続可能性だという方針になりました。


 生活クラブの最大のテーマは、生産者とつながり、食べることで産地を支えることでしたが、生産者が生活している地域そのものについては、これまで私たちはあまり関心を持ってこなかったのではないでしょうか。第一次産業が風前の灯と化している現在、持続可能な産地にするために消費者へ求められることが、もはや食べるだけでは不十分なのは明白です。食べることと同時に生産地を知り、その地域のまちづくりに生活クラブが関与していくことが必要だという考えです。そして、私たちが考える農村が生きていくための対策は、生活クラブだけでは実現できないことです。地方自治体や志を同じくする人たちと、一緒に取り組んでいく必要があります。


 そこで「つながるローカルSDGs」という方針を取り入れました。ご存知のように、これまでも生活クラブは脱成長社会の実現を目指して「FEC+W自給ネットワーク構想」(注)を進めてきています。素晴らしい考えであると自負していますが、名称についてはもう少し社会一般に伝わる言葉にしたいと、環境省が提唱するローカルSDGsを採用しました。また多くのつながりをもって社会変革を進める意味を込め「つながるローカルSDGs」としました。

 

(注)生活クラブではFood(食料)、Energy(E)、Care(福祉)にWork(仕事)を取り入れ、地域経済の循環を目指すFEC+W自給ネットワークを構想している。

 

太陽光、小水力などの再エネを組み込むことが鍵

 

─これまでに生活クラブが地域とともに進めてきた、あるいは現在進行中のつながるローカルSDGsにはどんなものがありますか。

 

 生活クラブの生産者が多い地域で結成された庄内協議会、ぐるっと長野地域協議会、まるごと栃木生活クラブ提携産地協議会、紀伊半島地域協議会の4つの地域協議会では、すでにつながるローカルSDGsの様々な取り組みを進めています。


 1970年代から山形県庄内地域で生産者との提携をもとに、飼料用米の生産、太陽光発電所の建設などを共に進めてきました。また地域を持続させるための「移住の促進」への取り組みも進んでいます。福祉をテーマに山形県酒田市と連携して住宅を作り、移住を促進する構想を育んできましたが、それがうまく進み、非常に面白くなっているのです。


 その実績が評価され、2022年は「消費者の『食べたい!』が『住みたい!』につながった生活クラブと庄内地域のローカルSDGsプロジェクト」が、「第10回環境省グッドライフアワード」(環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具体化する取り組みを表彰し、その活動を応援するためのプロジェクト)での環境大臣賞優秀賞を受賞しました。


 同じく庄内地域の遊佐町では、生産者と生活クラブが共同開発した「庄内 遊YOU米」を栽培しています。エネルギー開発の分野でも、遊佐町に太陽光発電所を建設し、その収益を地域づくりに還元する「庄内自然エネルギー発電基金」を創設しました。このプロジェクトは酒田市の条例のなかに組み込まれたことから、一段と活性化につながりました。自治体が提携する相手として生活クラブを選んでくれると、地元の教育機関、金融機関の協力も得やすくなると思います。環境省の調査によると190ほどの自治体がローカルSDGsに関心を持っているようなので、やはり自治体の協力を得ることは大切ですし、可能性が広がると思います。


 長野県塩尻市とも包括協定を結んでいます。生活クラブのミネラルウォーターの産地です。水源から汲んだ水を組合員に供給しているのですが、それは住民の皆さんが飲んでいる水道水です。貴重な水をわけていただいているので、塩尻市との連携をもっと深めたいと考えています。実際に市長さん、副市長さんとお会いして、生活クラブの庄内地域の実践を伝え、同じようなことができないかと話してきたところです。また先日、野辺山で生活クラブ連合会や単位生協(単協)、そして生産者が出資したソーラーシェアリングが完成し、現在発電を開始しています。ソーラーの下の農地では2024年春からほうれん草の栽培も開始される予定です。長野には味噌や蕎麦、餃子などの消費材の生産者が多く存在します。その生産者たちはつながるローカルSDGsの推進のために様々な事業へのかかわりを強めています。今後も新しい事業が誕生することになると思います。


 紀伊半島では小水力発電のための水量調査を始める予定です。自治体とも話を進めているところで、採算に合うかどうかを十分に調査し、可能性を探っているところです。また今後、愛知県や関西の生活クラブの単協が地域協議会に参加することになっているので、新しい展開が期待できます。


 栃木県については、以前から耕畜連携が盛んな地域です。輸入に頼っている飼料用作物を見直すために、飼料用米、そして2022年からは子実トウモロコシを生産して豚に食べさせることを始めています。


 他の地域にもこのようなつながりをつくっていきたいと考えています。また、私たちが忘れてはならないのが、食料やエネルギーを消費する都市のあり方です。今回の『社会運動』で生活クラブ生協・東京、生活クラブ生協・神奈川の事例が取り上げられていますが、例えば東京都のなかで数少ない農業振興地域、あきる野市で生活クラブ・東京が農業者になって耕作を行っています。生活クラブの職員に加え、新規就農者の受け入れや組合員が有償ボランティアとなって野菜の生産を携わっています。また「農福連携」(62ページ参照)で障がい者の方がかかわってくれたり、特別支援学校の授業で農作業の手伝いを行ってくれています。さらに今後、畑を拡大していく予定でソーラーパネルの設置も交渉中だと聞いています。神奈川県や千葉県、埼玉県でも同じような取り組みが進行中です。生活クラブの組合員は積極的に地域づくりに参加してくれるので、構想さえあれば、つながるローカルSDGsの推進は実現すると考えています。

 

─生活クラブにとってのつながるローカルSDGsというのは、ひとことで言えば何でしょうか。

 

 「人と人がつながる」ということでしょうね。


 これはけっこう重要なキーワードで、一つひとつの地域で持続可能な未来のために頑張っていても、欠けているものが必ずあるんです。例えばいま、産地では作物を作り続けようという人が欠けている。その人たちが都市とつながり、関係性をつくっていくことによって、そこに人を補充したり、何か構想を生み出したり、一人ひとりの取り組みがつながることで地域社会がもっと豊かになるので、これからは関係性や、つながりがいままで以上に重要なんですね。これまでつながりのなかった様々な分野とつながることで、問題や課題を解決し、新しいものを生み出す可能性があると考えています。「つながるローカルSDGs」と考えれば、今後の私たちの目標もより明確になるのではないでしょうか。

(P.53-P.59 記事抜粋)

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