生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

Case①<農福連携>
農園がここにあるから人が集まり新しいコミュニティの芽が育つ
(多摩きた生活クラブ生活協同組合理事長 磯嶋志保子/東京都立あきる野学園主任教諭 小笠原望/生活クラブ生活協同組合東京職員 山内弘和)

【発売中】季刊『社会運動』2024年1月発行【453号】特集:まぼろしの商品社会 ―変革のキーワードは「使用価値」

東京都西部の多摩地域で、「農」をめぐって人と人の関係性を築きながら、数々の社会的な重要課題に取り組む実験的な農園が営まれている。「地域共生社会」の実現のために東京の農業を推進し、食の自給力を高め、市民の農業参加と交流を促し、農業と福祉の連携や若者の就農にもチャレンジする、まさに「つながるローカルSDGs」の実践だ。「生活クラブ農園・あきる野」に携わる3人に話を聞いた。

 

地域に根ざして実践する農福連携

 

 「生活クラブ農園・あきる野」がスタートしたのは2016年。育てた野菜を生活クラブ生協の組合員に提供する「直営農場」と、組合員に期間利用で貸し出す「農業体験農園」の二つの事業が、JR五日市線秋川駅から徒歩圏内の耕作放棄地を借りて始まった。


 農園設立当初から「農福連携」も構想されていたが、具体化したのは2019年。農福連携とは、障がいを持つ人たちが農業分野でやりがいを感じながら社会参画できる機会を提供しつつ、高齢化と担い手不足が進む農業の課題解決につなげようとする取り組みだ。具体化のきっかけは、近隣の特別支援学校、東京都立あきる野学園の「農園芸作業学習」に生活クラブ農園の職員が外部専門家として参画したことだった。学園内の畑で野菜栽培のアドバイスをすることに加えて、直営農場で生徒と先生の農作業を受け入れている。同年11月には就労継続支援B型事業所(注)から障がい者の農作業の受け入れも始まった。

 

(注)障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つ。障がいのある方が一般企業への就職が不安、あるいは困難な場合に、雇用関係を結ばないで軽作業などの就労訓練を行うことができる。

 

特別支援学校の生徒とともに

 

 あきる野学園の農園芸作業学習への参画は生活クラブ農園の直営農場で毎週2回、行われている。農作業は、種まき、間引き、草刈り、収穫など多様だ。取材に訪れた日は、唐辛子の葉とり調整作業と、ポップコーン用の乾燥トウモロコシの脱粒作業の2班に分かれ、9人の生徒が手を動かしていた。


 「生徒たちは説明を聞き、手順を覚え、作業を重ねるうちに、ものすごく適応力が養われていきます。達成感があるからか、作業学習が嫌だという生徒はいないですね」と学園の教諭で農園芸作業を担当している小笠原 望さんは話す。


 「農作業は一般の人でも得手不得手があります。障がいのある生徒たちも同じです。じっとしているのが苦手だったり一人ひとり個性の幅がより大きいので工夫が必要です」と言うのは、生活クラブ・東京の職員で農園担当の山内弘和さん。いつも小笠原さんと相談し、複数の作業を用意したり工程に配慮しながら授業を組み立てているという。

 

生活クラブ農園だから広がる実体験

 

 生徒たちが作った農作物は都内にある、生活クラブのデポー(店舗)で販売されている。「『デポー八王子みなみ』の農園野菜コーナーで写真や動画を撮ってきて、『みんなが土落としや袋づめをした野菜はこんな風に売られているんだよ』と生徒たちに見せたりしています。自分たちの野菜のその先を知ると、やりがいや達成感がより高まるようです」と小笠原さん。農園芸作業学習の体験を通して興味を持ち、卒業後に就労継続支援B型事業所で農作業に携わるようになった卒業生も出てきた。


 また、あきる野学園の作業学習には農園芸班のほかに焼き菓子を作る食品加工班、ミシンや刺繍を主に行うハンドワーク班、清掃や事務仕事を行う総合サービス班などがあり、生徒一人ひとりの適性や希望、そして卒業後の進路も視野に入れて選択するカリキュラムになっている。食品加工班では、農園芸班と生活クラブ農園との協力関係から新しい試みが始まった。「内藤かぼちゃのパウンドケーキ」などのお菓子の製造である。


 「農園で収穫した野菜などを使って、食品加工班の先生が考案した焼き菓子の試作を重ねています。せっかくなので材料も吟味して生活クラブの卵やバターを使いました。組合員の方々の試食でも好評です。学園祭で販売する計画もあります」と小笠原さんは目を輝かせる。

(P.62-P.65 記事抜粋)

 

インターネット購入