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市民セクター政策機構

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 2023年10月11日、札幌市の秋元市長とJOC(日本オリンピック委員会)は2030年冬季五輪・パラリンピックの招致を断念すると発表した。これは、21年東京大会の汚職・談合事件の影響などで市民の支持が伸びず、際限ない開催経費増大への不安も払拭できなかったためである。いわば、東京五輪の「負の遺産(レガシー)」が、遂に札幌招致を押し潰したとも言えよう。


 そして、招致断念の根本原因たる、東京五輪の一連の汚職・談合事件の中心にいたのが電通である。22年7月20日の読売新聞「五輪組織委元理事、大会スポンサーAOKIから4500万円受領か…東京地検捜査」のスクープ記事を皮切りに、電通元専務で元東京五輪組織委員会理事、高橋治之氏が受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。


 さらに贈賄側として㈱アオキの元会長青木拡憲氏や、出版大手KADOKAWAの角川歴彦会長(後に辞任)をはじめとして、広告大手ADKの社長や大広の社員など、総勢15名が逮捕されるという大事件に発展した。

 さらに23年2月、東京地検特捜部は、広告最大手の電通グループなど6社と関係者7人を、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕・起訴した。逮捕された関係者は、大会組織委員会の元次長と6社の幹部らである。特捜部は、これらの企業や関係者が、オリンピックやパラリンピックの運営業務をめぐる入札で、事前に落札者を決める談合を行っていた疑いがあるとした。

 6社の中には電通・博報堂・ADK・東急エージェンシーなど大手広告会社が含まれていたのだから、まさに業界ぐるみの談合事件であり、その主導をしていたのが、五輪でマーケティング専任代理店となっていた電通だったのだ。

 

「電通のための五輪」がもたらした惨状

 

 2022年度の総売上高5兆2千億円を超える広告会社、電通は、単体では世界最大、グループで世界6位に入る巨大企業だ。
 電通の石井直社長(招致当時)は13年の東京五輪招致決定直後、「電通はこの五輪で1兆円を稼ぐ」と社員にメールを送って叱咤激励したと言われている。招致から開催までの7年間のトータルとはいえ、たった一つのスポーツイベントで1兆円を稼ごうとは、五輪の巨大さを思い知らされる逸話だ。


 その電通にとって、21年に開催された東京五輪は、巨額の売り上げ達成と、五輪開催を取り仕切ったという名声の両方を手にする、究極のイベントになるはずであった。まさに「電通の、電通による、電通のための東京五輪」になるはずだったのだ。だが、前述したような戦後最大級の大疑獄事件を引き起こし、そうはならなかった。


 私は何年も前から、拙著『電通巨大利権』『ブラックボランティア』『東京五輪の大罪』を通じて、東京五輪や政府広報等の電通一社独占体制の危険性に関して警鐘を鳴らしてきた。東京五輪疑獄事件は、その「電通独占」が招いた結果である。この一連の逮捕劇の結果、日本人が「五輪」に抱いてきた「美しいスポーツの祭典」などといった淡い憧れは、完膚なきまでに崩壊したと言えるだろう。

 

主な国家的行事には電通が介在

 

 とはいえ電通は、日本国内における圧倒的なガリバー広告会社である。正確なシェアは未発表であるが、日本におけるマーケットシェアは4割近いとされ、2位の博報堂(約1兆5千億円)を規模では完全に凌駕している。そして、電通の業務取扱領域は単なる広告制作・放映にとどまらない。ここで、電通の主要な業務実績を挙げてみよう。

・さまざまな企業の商品CM、セールスプロモーション展開
・メガイベント(五輪、W杯、万博、世界陸上等)の招致・開催
・原発事故以前の原発安全プロパガンダ展開、批判的報道の封じ込め
・原発事故以降の復興プロパガンダ展開
・自民党の広報PR、選挙スローガン開発、選挙CMの制作放映
・G7などの政治イベント立案・開催(広島サミット)
・中央官庁による施策(持続化給付金・マイナポイントキャンペーン等)、全国市町の大型イベント企画・実施
・テレビ局・出版社とのメディアミックスで映画制作・公開

 というように、実に多くの事業を請け負っている。25年開催予定の大阪万博の広報担当も電通であるが、現在東京五輪不正のため大阪府から指名停止処分を受けている。また、22年9月に行われた安倍元首相の国葬も、本来なら昭和天皇の国葬を担当した実績を持つ電通が取り仕切るはずだったが、こちらも東京五輪不正の煽りで獲得できなかったと言われている。CM制作から五輪、国葬まで、実に幅広い種類の業務を担ってきたのだ。


 だが実は電通は、すでに自らを「広告代理店」「広告会社」と呼称することをやめている。2020年の雑誌インタビューで、当時の副社長の榑谷典洋氏(現社長(2023年12月現在))は「我々はもはや自分たちが広告会社であろうとは思っていない。電通は『総合ビジネス・ソリューションカンパニー』を目指す」と述べている。


 つまりこれは、今までの「広告会社」よりも幅広い分野である、企業や事業の戦略立案、IT戦略立案・システム化構想策定といった、あらゆるコンサルティングサービスを幅広く手掛けていくという意味であり、競合相手もマッキンゼーやデロイトトーマツ、アクセンチュアなどの、世界的コンサルティング企業となっていく。その結果が、持続化給付金事業やマイナポイント事業など、一見すると広告とは関係のない業務請負に繋がっているのだ。

(P.113-P.115 記事抜粋)

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