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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

書評②『コモンの「自治」論』(斎藤幸平、松本卓也 編 集英社 2023年)

【発売中】季刊『社会運動』2024年1月発行【453号】特集:まぼろしの商品社会 ―変革のキーワードは「使用価値」

一歩を踏み出す力を与えてくれる本

 

神奈川ネットワーク運動 山崎佐由紀

神奈川生まれ。1994年生活クラブ加入。2015~2023年、大和市議会議員。2012年から
カルチャーセンターでボタニカルアートの講師もしている。今年の牧野富太郎ブームで仲間が増えることを期待中。

 

 熱い本である。30~40歳代の若き7人の論者(1974~87年生まれ)が「このままの世の中ではいけない」という思いから、もがきつつ、新たな道を探っている、その想いを垣間見ることができる。

 そして同時に重い本である。「このままではいけない」と考える良識ある読者に、いまこそ行動せよと迫ってくる。

 前提として、「人新世」の複合危機が示される。もはや地球環境は修復不可能な臨界点に近づいている。そしてそのなかに生きる人間はどうなっているか。資本の支配は、人間の内面にまで及んでいる。「それ、何の役に立つの?」と子どもが聞く。若者が「コスパ、悪いんじゃない?」と切り捨てる。そして人はどんどん受け身になり、お上の決めたことには諾々として従う。危機が深まれば、大きな国家が経済や社会に介入して、人の生を管理する。政治がトップダウン型に傾く。民主主義が崩壊し、全体主義が到来する。考えたくはないが、これが現実であり、未来の少なくない可能性だ。

 いいのか、それで?よくないと思う。そしてそう思う人もどうすればよいかわからない。そんな読者に「〈コモン〉(市民の共有物)を耕し、それを管理する方法を模索するなかで、私たちの『自治』の力を鍛えていく。それこそが、『人新世』の複合危機を乗り越える唯一の方法なのだ」とこの本は断言し、突きつける。そして、いま芽生えつつある希望を読者の前に差し出す。ほら、ここにも、ここにも希望があると。

 

これって、代理人運動とワーカーズ・コレクティブかな?

 

 人びとが支え合う居場所である街の小さな店。市民が政策をつくり、新しいリーダーを使って動かす地域の政治。大きな話題となっている神宮外苑再開発反対運動。精神病院の在り方を変えた北海道の「べてるの家」。北九州の「抱僕」などなど、そこには無名の人びとのいままでとは違う活動や生き方が描かれている。3章の最後、岸本聡子氏の「小さな一歩を生み出すことで自信をつけることがいかに大事か。それが、やがて大きなうねりを生み出すことに間違いない」という言葉からは、実践から得られた充実感がうかがえる。

 それらを理論でまとめたのが7章の斎藤幸平氏の論だ。
 国の在り方を変えようとする上からの改革に希望はない。下からの改革が必要。そのためには市民が「自治」の力をつけねばならない。ただ、水平の関係だけでは組織は長続きしない。自分たちのなかから数多くのリーダーを生み出し、「大衆が先に『戦略』を考え、政治家やリーダーたちがそれを実現させる『戦術』を考えるという、『逆転』の方法を提示」している。「コモンを管理し、構成していく能力こそが、市民の『自治』を可能にし、政治が市民から切り離されるのを防ぐ。その能力を養うには、経済、つまり生産の次元を変えなければならない」。そうすることで「私たちは、〈コモン〉を資本主義から取り戻せるようになってくる」。
 と読んでいると、あれ、これって代理人運動とワーカーズ・コレクティブかな?とこの雑誌の読者なら思うはず。ただし、その単語は出てはこない。元気がない両者の最近の様子を目の当たりにしている身としては、ちと複雑ではある。
 実はこの書評を依頼される少し前に、同じマンションの住人が「紹介したい」と、この本を持ってやってきた。びっしり線が引いてあった。そして、その人は住民の集まりの場を設けることを提案し、今度、交流会を開くことになった。
 確かに人を動かす力をこの本は持っている。そして、次に動くのは、あなただと促している。

(P.122-P.123 記事全文)

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