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サンリオ=≪かわいい≫を奪わせないために (瀧 大知 市民セクター政策機構・客員研究員、外国人人権法連絡会・事務局次長)

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道徳性を見失った企業のコラボレーション

 

 人は満足感を得れば同じ商品をいくつも買わない。そのため「モノ(消費財)」は広告/デザイン化されて、それ以前のモデルや他社製品との差別化が図られる。必然的に社会/市場は差異化をめぐるゲームの場となる。そして、このゲームは時に道徳性を見失う。


 差異化の一例として、企業間のコラボレーションがある。これを特徴とする企業に、2023年に50周年を迎えた「ハローキティ」で有名な「㈱サンリオ(Sanri?)」が挙げられる。様々なコンテンツとのジョイントは、人びとを楽しませてきた。一方、批判を受けたものもある。それが「APAホテル」と、コスメなどで有名な「㈱DHC」とのコラボ企画である。例えば後述するDHCによる差別発言に抗議を続けてきた市民団体「沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない市民有志(以下、沖縄有志)」は、2020年9月にサンリオに対して、両企業とのコラボ中止を求める申入書を送付したことをTwitter(現X)で報告している(2020年10月28日投稿)。


 本稿ではこの問題について、「消費社会」という観点から抗議の意義も含めて後付けてみたい。

 

APA&DHCによる歴史の否定/差別の煽動

 

 まずサンリオとAPA&DHCのコラボが批判された理由には、2社が極右的であったことにある。


 APA創業者の元谷外志雄は、「藤誠志」のペンネームで右派論客としても活動してきた。ホテルの客室には元谷の著作が置かれている。その一つ『理論 近現代史学Ⅱ 本当の日本の歴史』は、南京虐殺について「存在しなかったことは明らか」であり、「『虚構である』証拠の数々」が書かれた歴史否定論の本であった(同社HP「客室設置の書籍について」より)。2017年にはこれが中国のSNSで話題になり、中国のネットユーザーを中心に批判が沸き起こった(注1)。

 次にDHC(現在はオリックスが買収)だが、同社はヘイトスピーチで問題を起こしてきた。2020年11月には自社HPに当時の吉田嘉明会長の名前入りで、「サントリー」の「CMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人」「ネットではチョントリーと揶揄されている」と、在日コリアンに対する差別的な文書を掲載した(注2)。この他にも2018年には、東京MXテレビの番組「ニュース女子(製作はDHCテレビジョン(現・虎ノ門テレビ))」の内容が、沖縄の基地反対運動への偏見を助長しており、反差別団体『のりこえねっと』の辛淑玉共同代表への人権侵害に当たるとして、BPO(放送倫理・番組向上機構)から放送倫理違反を勧告された(詳細は「のりこえねっと」のHPを参照)。

 

サンリオのみんななかよく=平和主義は

 

 他方、サンリオが批判された背景には「あのサンリオが…」という失望感もあった。


創業者の辻信太郎(現・名誉会長)は1945年7月、18歳の時に甲府で空襲にあった。その悲惨な状況と平和の願いをサンリオの機関誌『いちご新聞』に「いちごの王様」と名乗り毎年8月号に寄稿し続けている。2023年も「王さまの心には『戦争は絶対にいけない。人間同士が殺し合いをする戦争をなくすにはどうすればいいのか?』という問いが生まれていました。(中略)お友だちとなかよくすることが、いずれ大きななかよしの輪になって、世界中がなかよく=世界平和になると、王さまは信じているのです」(2023年7月10日配信)とある。同社HPの「経営理念」にも「みんななかよく」を達成すること、と記載されている。


 世界中の人びとを含めた「みんななかよく」のメッセージは、差別への抵抗にもなる。2020年5月25日、アメリカで黒人男性が警察官による不当な拘束を受け、殺害された。事件後「#Black Lives Matter」がSNSで次々に拡散、サンリオもこれに賛意を示し、同年6月3日に黒い背景に白文字で「Black Lives Matter. Kindness Matters」とツイートした。

 

《かわいい》を取り戻すために

 

 サンリオ広報は、コラボ相手の条件を「『世界中がみんな“なかよく”』に反するものはお断りしています」と語っている(注3)。本来、その理念は極右的なものと相反するはずである。何が、結合を可能にしたのか。
 ここに「消費社会の論理」が見出せるのではないか。消費社会論で著名なジャン・ボードリヤールは、「消費の論理は記号の操作として定義される。創造の象徴的価値も、象徴的内面的連関も、そこには存在しない。消費の論理全体が、外面性のうちに存在しているのだ。モノは客観的な目的性と機能を失って、さまざまなモノのもっと幅の広い組み合わせの一項目となる」(注4)と指摘する。つまり、市場における消費社会の差異化ゲームはモノの意味を失わせることにより、異質なモノと結合する可能性を生み出してしまう。


 辻信太郎は、サンリオの前身である「山梨シルクセンター」を設立した理由について、「みんなが仲よくなるために役立つ、かわいらしい文房具などの小さなプレゼントをつくろうと考えた」と語る(注5)。《かわいい》には、辻の魂とでも呼べる反戦平和の願いが込められている。DHCとサンリオのコラボグッズの宣伝にも「カワイイ」の言葉が溢れるが、それは辻が想う《かわいい》ではない。商品を彩るため、売れる/資本蓄積のためにサンリオ(=辻)の「理念」からキャラクターを脱色/無意味化し、自由に飼い慣らせるようになった記号でしかない。


 歴史否定や差別は「みんななかよく=平和」を壊す。サンリオが極右的な企業とコラボをしたことは、ある種の自殺行為であり、キャラクターがもっていた平和への願いを無力化する行為ではなかったか。「沖縄有志」のツイートによれば(抗議の効果は不明だが)、サンリオとAPA&DHCとの契約は終了したという(2020年10月28日投稿)。ただし同じことは何度でも起きうる。「消費社会の論理」は作者の想いを忘却の彼方へと追いやる。であるからこそ、そのモノが持っていた/いる価値について、企業は自覚的でなければならない。サンリオ+極右に向けられた批判は、企業の文化とその歴史とは何かを問い直す行為であり、また、キティや「ぐでたま」たちに再び魂を吹き込むことでもある。

(P.134-P.137 記事全文)

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