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「次年度予算を大幅に削減 原状復旧を要請する社会的経済の人びと」 (韓国・城南市 元・社会的経済政策官/市民セクター政策機構客員研究員 崔 珉竟<チェ・ミンギョン>)

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 社会的経済にかかわる団体や個人、「共に民主党」など野党議員が2023年10月18日、「社会的経済予算の原状復旧のための共同対策委員会」の発足式を開いた。同年9月、政府が国会に提出した24年度予算案で社会的経済領域の予算が大幅に減ったためだ。協同組合関連は前年よりも91%、社会的企業は61%、マウル企業は61%も削減される内容だったのだ。現場の衝撃は非常に大きい。社会的経済組織のなかでは、自活企業(注)だけが増額した。これらを表1に整理する。

 

「育成」から「自生」に変わる政策

 

 尹錫悦政府は2023年9月1日、「第4次社会的企業基本計画(以下、基本計画)」を発表した。


 基本計画では、2007年の「社会的企業育成法」制定以来16年間を、政府の直接支援中心の画一的な育成政策の結果、様々な副作用が発生したと総括した。第1に人件費中心の財政支援により雇用提供型が大多数(22年現在、社会的企業の66・4%)を占め、社会的企業が政府雇用事業の遂行機関というイメージから抜け出せずにいる。政府による莫大な人件費支援も長期的な雇用創出効果は微々たるものであり、支援金不正受給の事例も続けて発生している。


 第2に、社会的企業は、財政支援や公共機関優先購買など政府支援への依存度が高く、自生力と国民認知度を備えた企業に成長するには限界がある。また、過度な支援が一般中小企業に対する逆差別にあたるという指摘もある。
 第3に、社会的企業認証要件さえ満たせば、社会的価値創出の程度と関係なく同じ支援を受ける構造なので、社会的価値向上への意欲が高まらない。


 以上のように総括したうえで、政府は基本計画を通じて社会的企業本来のアイデンティティを回復しながら政府財政から自立するための革新方針を提示した。その内容は、第1に、政府による支援は販路構築やコンサルティングなど間接支援とし、新規雇用のための人件費など直接支援は一般中小企業と同様の支援制度(雇用促進奨励金、障害者雇用奨励金、障害者インターン制、社会保険未加入者を解消するための施策など)?に統合する。


 第2に、一律的な支援から脱皮し、社会的価値・経済的成果などを評価し、公共購買、税制優遇など政府支援を差別化し、評価結果を公表して公共・民間の調達ガイドラインとして活用する。


 第3に、優秀な社会的企業の規模化を促進するために、民間企業のESG経営などと連携した投資説明会などを開催し、多様な投資家が収益率だけでなくESG経営の観点から社会的成果などを基準に投資できる資金調達体系を造成する。
 第4に、少子高齢化時代に合わせて、介護・家事など社会サービス分野において社会的企業の役割を拡大する。この分野に特化したコンサルティングおよびファンドによる支援を通じて社会的企業の経営力を強化する。これと共に、創意・革新的な社会的企業の参入を誘導し、企業本来の経営活動を支援するために利益配分の制限および事業報告書の提出義務など行財政的な負担も緩和する計画だ。
 第5に、?現在は社会的経済企業のための「認証、指定、教育・コンサルティング」など公共行政業務は、民間委託機関を通じて遂行してきたが、今後は韓国社会的企業振興院が直接遂行し、公共行政の公正性・信頼度を強化する。


 つまり基本計画は、政策パラダイムを「育成」から「自生」へと全面転換することが必要だと強調したのだ。


 これにより2024年から、脆弱階層の人件費と社会保険料への支援は全面的に中断されるので、社会的企業に雇用された障がい者と老人、一人親女性などが働き口を失うことになる。社会的企業の事業開発費支援政策も廃止されるが、この影響は3466の社会的企業におよぶ。社会的経済中間支援組織も「統合成長支援センター」という名前で統廃合する。社会的企業とマウル企業、自活企業、社会的協同組合など社会的経済企業の多様性と特殊性を考慮しないということだ。各自治体でも部署名称を変えたり、組織と予算を大幅に縮小する動きがある。「弱者福祉」(普遍的福祉を否定して、選別的福祉を行うこと)を強調した尹錫悦政府で労働脆弱階層がさらに疎外される今、協力的ガバナンスで国家の空席を満たしていた社会的経済の地位が揺れている。

 

社会的企業の成果と現状を無視する基本計画は全面的に見直すべき

 

 韓国社会的企業中央協議会(以下、協議会)は2023年9月18日、「社会的企業成果政策フォーラム」を開いた。フォーラムでは、自分たちは政府の社会的企業政策を尊重し能動的に協力してきたが、政府は事前に約束した現場との意見交換を全く実施しないまま突然、基本計画を発表し、それだけでなく基本計画の基調は社会的企業家をあたかも「無能」で「無責任」な、政府支援に依存する集団と見ていたことを、強く批判した。


 さらには、基本計画において統計データが誤読されたり意図的に曲解し取捨選択されていることを次のように正した。

 

①「人件費など莫大な政府支援をしたにもかかわらず、効果がごくわずかだ」という指摘に対して

 

 政府の人件費支援を受ける社会的企業は約30%であり、社会的企業における全雇用者の約10%以内である。また、全収入の中で政府支援金が占める比重は2%以内に過ぎず、大部分は「事業活動」によって収入を生み出していることが容易に分かる。加えて、社会的企業の財政支援事業は、徐々に経済的に自立できるように認証後3年間のうちに段階的に縮小していく。ちなみに社会的企業の認証後5年生存率は86%に達し、一般企業は32・1%に過ぎないため、社会的企業が政府支援に依存するようにごまかすのは不当なのだ。


 2022年現在、全国3568の社会的企業では、脆弱階層4万人を含め、計6万6306人を雇用した。そして、脆弱階層に支給される給与は約8468億から1兆ウォンと推算される。つまり人件費974億ウォンの財政支援を受けて、約1兆ウォンの社会間接効用を創出しているのだ。

 

②「長期的な雇用創出効果はわずかであり、支援金の不正受給事例が絶えない」という指摘に対して

 

 社会的企業は雇用調整に対する厳格な基準を持っている。やむをえない理由なしに雇用調整を繰り返す場合、認証が取り消されることもある。また、社会的企業育成支援金は勤労者個人を対象にしておらず、企業に対する支援だ。
 特に、協議会が韓国雇用情報院の報告書全文を入手して検討した結果、社会的企業の雇用増加率は63・7%で、全事業体の28・3%よりはるかに高いことがわかった。かつ、この報告書は、育成事業を雇用事業の運営と成果、運営の適切性、制度改善努力などの指標で評価しており、その重要性を重ねて強調し、地域経済と地域共同体活性化の側面でも大きく寄与したと認めている。

 

③「認証が容易な働き口提供型が大多数」という指摘に対して

 

 雇用労働部は2007年に社会的企業育成政策を始めた時から、政策の重点を働き口創出とし、他のタイプへ転換しにくい政策を続けてきた。そのため経営に不便を強いられている社会的企業が少なくない。雇用労働部は、社会的企業育成法改正を通じて各認証タイプ別に明確な法的根拠と定義を用意すると同時に、認証タイプの変更を簡素化するよう制度を改善しなければならない。

 今般の社会的経済政策の大きな変更と予算の削減は、この20年間、厳しい環境のなかでも社会問題を解決し、社会的価値を作り出してきた社会的経済の奮闘の過程を、政府は無視し、名誉を傷つけ、枯死させようしているとしか思えない。中央政府の政策変更は、広域自治体と基礎自治体にも影響を及ぼし始めた。次号では、その影響について報告する。

(P.138-P.143 記事全文)

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