①再エネで豊かに暮らす <座談会>
福住洋美さん(生活クラブ生協・千葉 理事長) 佐野めぐみさん(生活クラブ生協・神奈川 副理事長) 秋久保由紀さん(生活クラブ生協・滋賀 理事長)司会 柳下信宏(市民セクター政策機構 理事長)
サムソ島からスタートした再エネを巡る旅
柳下 今回の視察で最初に訪れたのは、再エネ100パーセントの島として有名なサムソ島。ユトランド半島の東方15キロメートルに位置し、南北に約20キロメートル、東西約5キロメートル、面積114平方キロメートルの細長い島です。人口は3700人余りで、主要産業は農業と観光業。自然豊かで、のどかな美しい島でした。次に視察した再エネによる地域熱供給の協同組合は非常に興味深い事例でした。そして、デンマーク南西部の北海に面したエスビアウ港へ。欧州の洋上風力発電所の建設基地として、自治体が地域の雇用を生み出すために建設した港湾では、巨大な風車の部品が並ぶ光景に圧倒されました。
ドイツのベルリンでは、再エネや気候変動問題の2人の専門家と「緑の党」のフェル元国会議員から話を聞きました。またヘッセン州では環境省で法律に基づいた原発廃炉の厳格な手続きを、自治体の関連会社「ヘッセン・エネルギー・エージェンシー」で再エネ・省エネの普及活動について聞きました。
ツアーの最後にはドイツ南西部、フランクフルトの北西に位置するライン=フンスリュック郡を訪問。人口10万6000人のこの地域も以前は化石燃料による発電100パーセントでしたが、いまでは再エネ100パーセント、電力自給率300パーセントを超え、市民の生活に大きな変革が起きていました。
マイナス価格の電気を使うと儲かる!
柳下 視察で特に印象に残ったことは何でしたか。
福住 私が一番驚いたのは、電力市場に「マイナス価格」があることでした。供給が需要を上回って電気が余るときはマイナス価格になり、そのタイミングで電気を使えばお金がもらえるのです。
再エネは、風が吹けば風力の発電量が増え、お日様がたくさん照れば太陽光の発電量が増えますから、地域熱供給の協同組合では、余剰電力を生かして電気ボイラーでお湯を沸かして地下のパイプで各家庭の給湯や暖房に回します。マイナス価格だから、電気でお湯を沸かすと儲かるという驚きの一石二鳥です。風力や太陽光の発電量が少なくて電気の価格がプラスになるときは、木質チップなどその地域の自然資源を生かした再エネがボイラーの燃料になります。デンマークのサムソ島や、ドイツのライン=フンスリュック郡でも、このような地域分散型の再エネを複数組み合わせることで再エネ100パーセントが広がっていました。
日本では再エネが優先されず、余剰が出たら抑制してしまうのがネックになっています。必要なのは出力抑制ではなく、再エネ電気を無駄なく使い切ることです。
佐野 私も「お湯でエネルギーを蓄える」という発想に衝撃を受けました。日本にもエコキュートで夜間にお湯を作る仕組みはあります。でもそれは、24時間動く原発を前提としていて、原発を動かすために再エネを抑制しています。ドイツもデンマークも、変動する再エネ電気の余剰でお湯を沸かし、地域に熱供給をしていました。
日本には再エネの技術もあり、福島第一原発事故というターニングポイントがあったにもかかわらず、まさかの原発回帰。それに対してドイツでは脱原発派ではなかったメルケル前首相が、日本の原発事故をきっかけにラディカルに方向転換しました。デンマークでは、市民一人ひとりが再エネ利用の意識をボトムアップで広げた結果、法律で発電事業者と送電事業者を分けて独占を妨ぐなどの政策を進め、国民と国が一丸となって再エネを推進しているのが驚きでした。
福住 しかも市民出資の協同組合が発電事業を運営しているので、利益は大企業ではなく市民が得られる仕組みになっているのも驚きでした。ライン=フンスリュック郡では、かつて郡外に流出していた約3億ユーロ(約488億円、2024年2月現在)が、再エネ事業によって地域内にとどまって地域経済を活性化し、雇用も生み出しています。作った電気を余すことなく使い、市民にも社会にも好循環をもたらす。そんな市民主体の再エネ事業に大きな希望を感じました。
対話を重ねて、みんなで決めていく
秋久保 私が特に印象深かったのは、デンマーク国内で先陣を切って再エネ100パーセントを実現したサムソ島のソーレン・ハーマンセンさんです。「サムソ・エネルギー・アカデミー」でのレクチャーや見学で対応してくれた方で、環境学の教師でした。再エネ推進プロジェクトを牽引し、現在アカデミーの代表も務めています。彼の卓越した対話力と姿勢そのものが、市民がエネルギー自治を進めるやり方を示してくれているようで、すごく学びになりました。
福住 「エネルギーの技術的な知識も大切だけれど、コミュニケーションも大事」というソーレンさんの言葉は心に残りました。当初から地域のステークホルダーを集め、「自分たちがなぜ再エネに取り組むのか」「どんなメリットがあるのか」を個人の視点はもちろんコミュニティ全体の視点で徹底的に話し合ったそうです。ソーレンさんは、みんなの力を引き出す立役者のような存在だと感じました。
佐野 デンマークは1985年に原子力を導入しない方針を決めて省エネと再エネを政策の軸として定め、97年に環境省が再エネ100パーセントのモデル地区を募ったときに手を挙げたのがサムソ島でした。それ以前は、電気は本土から海底ケーブルで送られていましたが、公募を機に、住民が粘り強く議論を尽くして「自分たちの電気は自分たちで作る」という合意形成に至り、市民出資の協同組合や自治体がチャレンジし、2006年に再エネ電力100パーセントを実現したそうです。市民主体の実践が、国全体の政策転換につながっていったのが素晴らしいです。ソーレンさんは「何のために取り組むかを途中で繰り返し確認しながら進むことが大事」と話していて、私たちの活動にも通じることだと胸に刻みました。
(P.11-P.17 記事抜粋)