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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

②デンマークにおける熱供給システムの進化
(法政大学社会学部教授 髙橋 洋))

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合理的なデンマークの地域熱供給

 

 デンマークの地域熱供給は、1903年に廃棄物焼却施設で廃棄物を燃やす際に出る熱を近くの病院に供給することからスタートし、100年以上の歴史があります。地域熱供給とは1カ所にまとめた熱を、地下に埋設した熱導管を通して地域内の住宅などに供給し、暖房や給湯に利用するシステムです。1960年代までは石油・石炭の化石燃料を使用して熱供給をしていましたが、73年に起こったオイルショックからエネルギー転換に取り組み、再エネの導入も進めてきました。日本では再エネは電気として使用するものと考えてしまいますが、熱供給に必要なのは「熱」ですから、温めることができればいいのです。北海から採掘される天然ガスで熱を作っていた時期もありましたが、酪農国でもあるデンマークは、家畜の糞尿から作るメタンガスや木質バイオマスなどの再エネを、地域熱供給の燃料としてきました。


 これらバイオエネルギーは燃料であるため、発電に使うよりも熱に使う方がエネルギーの変換効率が高いのです。例えば、電気でエアコンを稼働させて暖房する場合、熱を電気に変えて、その電気を使用するわけですが、発電の際にエネルギーロスが出ます。それに比べ、熱供給は再エネを最初から熱として利用するので、ロスが少なく合理的です。さらに熱電併給システムとすることで、バイオエネルギーから電気と熱の双方を作り出しており、総合してロスが少なくなり、エネルギー効率を高めています。

 

再エネ300%のサムソ島

 

 デンマークのサムソ島は人口3700人の小さな島ですが、風力発電と太陽光発電、バイオマスを活用した地域熱供給システムを導入して再エネ100パーセント以上を達成し、世界的に注目されています。サムソ島もかつては海底ケーブルを引いて、島外から電力を買っていましたが、1997年に国の計画、「自然エネルギー100パーセント実現可能コミュニティのモデル地域」として選ばれ、再エネの島になりました。取り組みに懐疑的な島民もいたなか、ツアーでお話を伺った元学校教師のソーレン・ハーマンセンさん(サムソ・エネルギー・アカデミー代表)が中心となって、地域住民主導で計画を進め目標を達成しました。いまでは島の消費電力の300パーセント以上を生産して、地域の活性化に寄与しています。


 再エネを進めてきたハーマンセンさんの「How(手段)よりもWhy(目的)が大切です」という言葉は大変印象的でした。島では人口減少や高齢化などの地域課題がありましたが、その解決策として若者が地元に魅力を感じ、地域循環型の経済を生み出すことを再エネ導入の目標にしました。ハーマンセンさんはいろいろな立場の島の人びととインフォーマルな会合で、「再エネの島になるということはどういうことか」などについて自由に意見を交わし、市民の目線でエネルギービジョンを語り、合意形成をしていきました。


 また、ハーマンセンさんは島民自らがお金を出し合い、自分たちで風車を建てることに力を注ぎました。地域主導で再エネ事業を導入すれば、自分たちの土地の景観や騒音などにどのように折り合うか、得られた利益を地域のためにどのように活用するかなど、自分たちで決めることができるからです。
 サムソ島では、風力タービンを農家が個人で、あるいは協同組合が所有して売電収入の一部を島のエネルギー開発に充てています。さらに協同組合やサムソ島内の民間会社、サムソ市を通じて、デンマーク本土に売電して収益を得ています。再エネの導入によって、住民には経済効果がもたらされ、地域には雇用が生まれています。また、化石燃料を購入する必要がなくなるという経済メリットも享受しています。

(P.26-P.27 記事抜粋)

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