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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

③エネルギー自立の地域作り
ライン=フンスリュック群(環境エネルギー政策研究所 所長 飯田哲也)

【発売中!】季刊『社会運動』2024年4月発行【454号】特集:ワクワクする再エネ社会 脱原発の世界を歩く

ライン=フンスリュック郡の概要

 

 私が最初にライン=フンスリュック郡を訪れたのは2015年でした。再エネによるまちづくりの先駆的な事例として、ドイツ中にその名が知れ渡っていました。私が企画・監修を務め、弁護士の河合弘之さんが監督をした世界の再エネの実情を伝えるドキュメンタリー映画「日本と再生 光と風のギガワット作戦」(2017年制作・公開)を作るにあたって、ぜひ参考にしたいと訪問し、映画の冒頭のシーンにも使わせてもらいました。


 ライン=フンスリュック郡は、ドイツの中西部のラインラント=プファルツ州にある、人口10万人ほどの郡です。面積が991平方キロメートル。その45パーセントは森林、42パーセントが農地で、137の町や村があります。郡の北東の境界線はライン川です。私が初めて訪ねたときは、郡の温暖化防止対策担当のフランク=ミヒャエル・ウーレさんに案内していただきましたが、この方と元郡長のベルトラム・フレックさんなどが中心となって、ライン=フンスリュック郡の再エネによるまちづくりが進められていきました。

 

2020年末で消費量の3倍を風力発電で生み出す地域

 

 2020年現在で278基の風車が建っているライン=フンスリュック郡ですが、最初に風車が建てられたのは1995年、200世帯に電力を供給するところからスタートしました。2007年には、電力消費量の約24パーセントを風力発電で、約3・5パーセントをバイオマスや太陽光、水力発電で賄えるようになりました。それから11年後の2018年に地域の電力消費量の3倍を超え、2020年末には、地域の電力消費量の337パーセントの電力を再エネで生み出すに至っています(下図参照)。ドイツ全体としては、2035年までに再エネで100パーセントを賄う目標で、23年現在45パーセントまで来ていますが、ライン=フンスリュック郡はそれをはるかに超える水準になっています。圧倒的に増えたのが風力発電で、それだけで地域の消費量の3倍を超えています。その他は太陽光発電が21パーセントほど、バイオマスが7パーセント程度です。

 

 また、風力発電所の多くは自治体の所有地に建っているので、風車に土地を貸すだけで自治体には年間780万ユーロ、1ユーロ160円として(以下同)約12億円の収入があるほかに、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で3億5000万円の収入があり、他の再エネや雇用効果なども含めると、20年間で地域に330億円以上の経済的付加価値が生み出されると、ライン=フンスリュック管区行政局では分析しています。

 

太陽光発電・バイオマス熱供給も地域経済に大きく貢献

 

 また太陽光発電については、2010年に1000戸の住宅の屋根にソーラーパネルを設置することを目標としたプログラムが始まったのですが、23年現在では5000戸を超える住宅に設置されています。総額60億円くらいの地域への投資でしたが、FITによって1年で33億円ほどが戻ってきますし、それが20年間にわたって地域にもたらされるわけですから、地域経済に大きく貢献しています。
 また家庭菜園や庭から出る木質廃棄物によるバイオマスは、地域熱供給に利用されます。この10年でどんどん拡大していて、太陽熱による供給と合わせて現在17の地域暖房網ができています。年間約270万リットルの石油を節約でき、年間では約3億円の節約、20年で約64億?96億円が、産油国に支払われることなく地域に残る計算になります。さらに2021年には家庭ごみも受け入れ可能なバイオマスプラントが稼働して、発電と熱供給を担っています。

 

コミュニティ単位で進める省エネルギー

 

 もちろん発電や熱供給だけでなく、省エネルギーにも力を入れています。まず公共施設の省エネ化が1999年にスタートし、2010年には熱の消費を25パーセント、水の消費を26パーセント減らし、CO2排出量は9500トン減で、約3億円のコストを削減しました。
 また自治体が家庭での省エネを進めるプログラムを進めています。2014年の「フンスリュックは節電するキャンペーン」では、古い白物家電やヒートポンプの買い替えを促したり、シュノルバッハ村というところでは、独自の省エネ政策を策定して、「LED交換デー」を開催しました。古い電球をLEDランプに無償で交換できるイベントで、これはメディアでも大きな反響を呼び、その後ドイツ各地の自治体で実施されたといいます。


 また2019年から21年まで、7台の電気自動車によるカーシェアリングのモデル事業なども行われ、地域の再生可能エネルギーのさらなる利用につなげようとしています。

(P.33-P.36 記事抜粋)

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