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書評①『脱原子力 明るい未来のエネルギー』(折原利男 編著 新評社 2020年)

【発売中!】季刊『社会運動』2024年4月発行【454号】特集:ワクワクする再エネ社会 脱原発の世界を歩く

エネルギー転換は、地域単位での取り組みが大事

 

國學院大學客員教授 古沢広祐

エコロジー運動・協同組合論などを研究。
市民セクター政策機構理事。

 

 脱原発社会とは、安全性やリスク問題とともに、倫理の問題、とりわけ市民社会のあり方が問われるテーマだということを、本書は明解に私たちに語りかけてくれます。本書メインゲストのミランダ・シュラーズさん(ミュンヘン工科大学教授、研究者・教育者・市民活動家)は、米国出身ながら、ドイツ在住にて脱原発市民運動に長年関わり、ドイツを脱原発に導いた倫理委員会の主要委員で、日本とも縁の深い方(通算滞在歴5年)です。


 本書は、福島市、郡山市、東京で行われた「ミランダさん講演会実行委員会」(代表・池住義憲)による講演内容(第1章)、福島再生に取り組む人々とのトークセッション(第2章)、福島の高校生や市民、農家の方々、国会議員との交流の記録(第3・4・終章)、を編集したものです。その内容は多岐にわたります。

 

いち早く地域単位でつくられていったエネルギー協同組合

 

 一歩先を行くドイツでは、市民の合意やとくに企業を巻き込んで、再生可能エネルギー社会のビジョン共有について、四苦八苦する「闘う民主主義」の経緯があることが語られている点が、注目されます。とりわけ市民、専門家、政界、産業界の共同作業の道づくりがカギを握っていると言います。
 また、ドイツと日本の違いはあるものの、いち早く地域単位でエネルギー協同組合がつくられていったことが、「エネルギー転換」の大きな役割を担っている点は注目されます。とくに、全国各地に「100%再生可能エネルギー地域会議」ができていて、毎年各地の市民会議が結集する会合が開催されている状況が、転換の土台をなしている様子は羨ましいところです。


 風力発電での騒音や太陽光発電での立地問題など日本での課題については、ドイツでもあったとのことですが、地域での自治的な積み上げ、草の根からの民主主義的取り組みが功を奏してきたとのことです。その点では、地域の取り組みが、制度形成として「固定価格買取制度」(FIT)が連邦政府の政策になった良い例などもあり、小地域での先行的な取り組みが国をリードしたこと(アーヘン・モデル)はよく知られています。


 さらに、とくに若い世代の積極的な発言や行動もまた変革をリードしてきたことについても、それは3章での福島での高校生との交流の場でも語られています。日本の同調圧力的な文化的風土を脱して、社会や政治に参加して未来の一翼の担い手であることの認識の重要性が、日本の若者との意見交換ではとくに浮かび上がっています。


 政策レベルでの課題としては、再生可能な地域づくりとしてエネルギー分野の単独課題とだけで見ずに、地域の仕事づくりや多様な投資機会を広げていくことが大事だとの提言は的を射たものです。
 「未来を創る若者は希望が持てる仕事を求めている」との言葉や、後半の4章や終章など随所で語られる、「自然、モノ、人との調和を重視した個性あふれる多種多様な地域づくりこそが再生可能エネルギー社会への近道」といったメッセージは、課題山積みの私たちにとってはとくに胸に響きます。ドイツ先進事例に裏付けられたミランダさんの言葉だからこそ、その数々の具体的な提言はとても参考になるものです。


 「出口なきかの原子力問題に、勇気と希望を与えてくれるミランダさんからの具体的提言、メッセージを多くの方々と共有できればと願っています」(編者:折原利男)の願い通り、未来を見失いがちな私たち日本の読者にとっては、改めて脱原発社会を展望する道標として、必読の書のひとつと言ってよいでしょう。

 

『脱原子力 明るい未来のエネルギー ─ドイツ脱原発倫理委員会メンバーミランダ・シュラーズさんと考える「日本の進むべき道筋」』
折原利男 編著
ゲスト:ミランダ・シュラーズ 
新評論 2020年

(P.106-P.107 記事全文)

 

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