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③韓国の社会的経済と政治―第8回
逆風の社会的経済政策 自治体の新年度政策は、どうなったか
(崔 珉竟<チェ・ミンギョン>韓国・城南市 元・社会的経済政策官/市民セクター政策機構客員研究員)

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 前号で、尹錫悦政権が社会的経済の支援政策を後退させ、2024年度予算額を前年より大幅に削減を提案した、と報告した。その後12月には、予算が国会で可決され、社会的企業(注1)では832億ウォン(2023年度2434億ウォンで、前年比292%減)、協同組合では15億8000万ウォン(同79億ウォンで、500%減)、マウル企業(注2)26億9500万ウォン(同62億8500万ウォンで、233%減)に確定した。


 今号では、政府政策の変更が、広域自治体と基礎自治体にどんな影響を与えたのかについて、報告する。

 

ソウル市の場合

 

 「国民の力」のオ・セフン市長は2021年4月に市長に就任した後、次のような意向を明らかにした。市の補助金を市民団体に配布する際、直接市が配るのではなく、社会的経済の中間支援組織である市民団体に委託するという仕組みによって色々な問題が発生したので、これに手を加えるということだった。ソウル市社会的経済支援センターとソウル市協同組合支援センターの統廃合および縮小は、オ・セフン市長がすすめる民間委託事業の再整備の一つと考えられる。


 ソウル市の社会的経済関連予算は2020年545億ウォンから23年195億ウォンに減り、社会的経済支援センターの予算も20年が85億ウォンから23年には25億ウォンに縮小された。22年9月には「ソウル市社会的経済基本条例」を改正し、社会的経済委員会を常設でなくし、社会的経済支援センターが持っていた政策協議や調整、支援制度および研究開発の機能などを削除した。その結果、社会的経済支援センターと協同組合支援センターの予算が、23年度の33億8800万ウォンから24年度は25億300万ウォンへの削減が決まり、人員と事業が大幅に縮小した。そして、社会的経済の第3次中期(23年~27年)基本計画を策定した。


 このなかで、1、2次事業に対する積極的な評価が記述されている。それは、①中間支援組織を通じた社会的経済企業支援体系を構築、②公共機関に社会的企業製品の購入を義務付けることを通じて売上拡大に寄与、③社会的経済企業へ融資による支援、④青年層の社会的経済企業家の育成や雇用創出、④社会的経済企業の投資拡大、⑤社会的価値評価システムの構築と運営、というものだった。


 一方、問題点と改善課題として①政府の財政面や優先購買などの支援が各企業における生存努力を阻害したり不良企業が乱立する原因となった、②社会的経済企業製品の品質が一定しなかったり価格で優位性がないため民間企業からの売上げが伸びず、公共機関による売上に依存する傾向が深まった、③民間委託で運営される中間支援組織の運営が非効率的である、と言及された。
 これらをふまえて3次基本計画は、以下を戦略課題に設定したのである。①社会的経済企業を点検して自立のための力量を強化する、②優秀な社会的経済企業について販路を拡大すること、③中間支援組織を統合して運営効率を高める。


 このように、ソウル市が指摘している評価と問題点は、現政権の社会的経済企業政策と一脈相通ずるものであり、与党である「国民の力」所属の首長がいる広域自治体をリードしたものだ。

 

 韓国の状況が、社会的経済を活性化することがスタンダードとなっている国際社会の流れとも反することは、これまでの連載でも重ねて強調してきた。2021年にはヨーロッパ連合(EU)が「社会的経済実行計画」を発表し、22年には経済協力開発機構(OECD)が「社会的連帯経済および社会革新勧告(Recommendation of the Council on the Social and Solidarity Economy and Social Innovation)」を、国際労働機構(ILO)が「ディーセントワークと社会的連帯経済に関する決議(Resolution concerning decent work and the social and solidarity economy)」を採択した。23年4月には国連総会で190余りの加盟国が満場一致で「持続可能な発展のための社会的および連帯経済推進(Promoting the social and solidarity economy for sustainable development)」決議を採択した。国連決議は、国家・地域レベルで社会的連帯経済を支援・強化するための戦略・政策・プログラムを奨励し履行することを推奨する。


 この状況のなか、ソウル市社会的経済ネットワークは、「ソウル市が社会的経済を特定のイデオロギーの論理で眺めているのではないかと憂慮せざるを得ない」とし、「2024年1月に社会的経済支援センターの民間委託が終了しても、ソウルの社会的経済企業に対する支援が中断されず、約10年間市民によってなされた社会的経済の生態系が持続することを願う」と話した。

 

京畿道の場合

 

 京畿道では、「共に民主党」のキム・ドンヨン知事のもとで、社会的経済政策がすすめられている。京畿道の2024年度予算編成にあたって、経済政策分野を担当するヨム・テヨン京畿道副知事が京畿道議会、京畿道社会的企業協議会をはじめとする当事者組織、中間支援組織、京畿道社会的経済委員会、京畿道社会的経済院などと共に「中央政府の社会的経済政策変化対応 疎通懇談会」を開いて、対応方法を議論した。京畿道では政府からの社会的経済関連支援金が2023年より計149億ウォン削減された。直接支援分野では123億ウォン削減され、雇用人員455人、241人分に相当する社会保険料補填額、事業開発費130社に影響がおよんだ。間接支援分野では26億ウォン削減された。


 そのため、京畿道は2024年度、社会的経済への支援政策として総額190億ウォンを予算化し、京畿道議会で承認された。その内訳は、直接支援では、社会的経済における雇用への影響を最小にするための新規予算として119億1000万ウォンを計上した(市や郡との協議を通じて650人規模の働き口支援に72億6200万ウォン、2241人分の社会保険料46億5100万ウォン)。間接支援としては、持続可能な社会的経済生態系造成事業費70億4000万ウォンとなっている(事業開発費など国費補助金削減への対応として68億9000万ウォン、政府の社会的価値評価指標測定コンサルティング支援(注3)1億5000万ウォン)。


 京畿道議会の議員構成は国民の力と共に民主党が同数なので、予算と政策を決める上で難しい点が多くあるが、社会的経済企業に関してはその支援政策が高い成果を上げていたので、予算が承認されたのだろう。京畿道では、2020~22年の3年間継続して売上・雇用データがある社会的経済企業500社のうち、財政支援を受けた242社、支援を受けなかった258社に対する分析を行った。すると、財政支援を受けた企業は売上額が2021年119%、22年126%に成長していた。他方、財政支援を受けていない企業は、21年105%、22年107%だった。雇用人数変化についても、財政支援を受けた企業は、21年110%、22年120%、雇用が増えた反面、受けていない企業は21年101%、22年103%だけだった。なお、京畿道では、予備的社会的企業(注4)325社、認証社会的企業657社で、計982社の社会的企業が運営している。

 

全羅南道の場合

 

 韓国政府の予算削減で、全羅南道の社会的経済企業も非常事態に直面することになった。全羅南道議会のナ・グァングク議員(共に民主党)は、政府の予算削減にともなう解決策作りに乗り出した。
 2023年は全羅南道の社会的企業人件費のうち、90億ウォンが国費予算からだったが、24年は40億ウォンとなった。しかもこの40億ウォンも25年からは受け取れなくなり、今後、脆弱階層の雇用難が予想されている。さらに、社会保険料は全額削減された。


ナ議員は「2021年現在、全羅南道の社会的経済企業2150社の売上額だけで4076億ウォンであり、ここで働く道民は8398人だ」とし、「社会的経済は地域経済の呼び水であるにもかかわらず、人件費や社会保険料の予算を削減することは、必然的な構造調整(支援が停止された社会的経済企業が労働者を解雇したり、企業活動を中断すること)につながってしまうだろう」とし、全羅南道に対策の準備を促した。


 これに対しウィ・グァンファン働き口投資誘致局長は「国費の確保が難しい状況だが、国会と接触して予算増額を要請している」として、「人件費を含む国費が削減される事業の一部を、道の自主事業に転換して支援し、社会的経済組織が生み出すものやサービスの販路拡大と販促支援事業も強化している」と答えた。

 

 社会的経済に友好的な自治体首長がいる場合、国家予算が削減されても地方自治体の予算を投入して、支援政策を継続する事例はある。しかし、2024年度も経済不況が予想され、韓国経済が高物価、高為替レート、高金利の状況から抜け出すことは難しいだろう。特に税金収入で運営される地方自治体はさらに困難に直面する状況であるため、このような地方自治体の支援も今後は縮小する可能性が高い。そして社会的経済以外にも韓国社会が気候危機、「人口絶壁(人口の急激な減少)」、働き口、福祉など、集中して取り組まなければならない分野がさらに増えるだろう。


 今や社会的経済組織は転換点に直面している。政府の支援がなくても社会問題を解決しながら社会的価値を作り出すことができてこそ、真に持続可能で競争力を確保することができるからだ。そのためには、ビジネスモデルを点検し、自らの競争力について考えなければならない。このような状況であるほど、社会的経済が作り出した価値と成果を自ら積極的に社会に知らせ、社会的経済の生態系を活性化することに寄与するという心構えで、社会的価値を作っていけば良い。

(P.120-P.126 記事全文)

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