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電力の地産地消・産直を実現しよう―EUの現状とドイツの実践(市民エネルギーとっとり代表 手塚 智子)

季刊『社会運動』 2016年4月号【422号】 特集:市民が電気を作る、選ぶ

1EUのエネルギーと電力自由化の概要

 ヨーロッパの電力小売自由化は、1996年に制定されたEU電力指令に端を発する。EU電力指令は2003年、2009年と重ねて発信され、発電・小売市場の自由化、発電事業と送電事業の分離(発送電分離)が、各国で法制度を整えながら、段階的に進められている。自由化された市場では、国境を越えて事業を拡大する巨大総合エネルギー事業体が生まれている。
 ヨーロッパのエネルギー政策目標は、「持続可能性」、「競争力確保」、「安全保障」の3本柱からなる。具体的な戦略として、2010年11月に「欧州2020年戦略20─20─20」が発表された。2020年までにCO2排出量を1990年比20%削減、効率を高めエネルギー消費量を20%削減し、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる目標を設定した。さらに、2011年には「低炭素経済ロードマップ2050」によって、2050年までに温室効果ガスを1990年比80%削減するためのシナリオが示された。
 日本の長期エネルギー需給計画の需要及び電源構成を顧みると、きわめて保守的な内容にとどまっている。エネルギー自給率を向上させ、輸入する化石燃料への依存を戦略的に減らしていくことをエネルギーセキュリティというが、日本ももっと重要視すべきであろう。

 

岐路に立つフランスと分散型システムに移行するドイツ

 EUの2カ国、フランスとドイツの現状を少し詳しく見てみよう。2014年度実績値の電源構成は、フランスでは原子力78.3%、再エネ16.1%(内水力10.9%)、天然ガス2.5%、石炭2.2%、石油その他0.9%となっている。ドイツの電源構成は石炭+褐炭が45.2%、再エネ26.2%(水力3.2%)、原子力16%、天然ガス10.1%、石油その他2.5%となっている。
 フランスの電力自由化は、1999年から段階的にはじまり、2007年に完全自由化した。旧国営のフランス電力会社(EDF)は2004年に株式会社化されたものの、今も政府出資率は8割を超えており、原子力を主とする発電市場の90%を占める寡占状態になっている。また、イギリスをはじめ国外で積極的に電気・ガス事業を展開する。発電所から電気を送る送電会社RTEは、EDFの100%子会社で、国内唯一の事業者だ。高圧で送電された電気を調整し家庭や事業所に届ける配電事業も、EDFの100%子会社であるERDFが約95%を独占し、残りの5%は約170社ある地域の公社等が運営している。現状では、安いEDF等の規制料金を利用する人が8~9割を占め、電力会社の切り替え率は2~4%と低迷している。一方で、稼動中の原子炉も老朽化しており、原発のコストの見直しや電源の多様化が求められている。
 ドイツでは、1998年から電力小売市場が全面自由化した。その後、8大電力会社は4大電力会社に吸収合併し、新規参入した100社を超す小売会社のほとんどが市場から退出した。4大電力の市場占有率は、2004年に発電事業95.6%、小売事業が72.8%と独占・寡占状態が進んだが、その後2013年には発電が68%、小売は大口が43%、小口が34%へと低下している。再生可能エネルギーの導入量が増えたこと、原子力発電設備の稼働停止等がその背景にある。電力供給において、ベースロード電源はもはや過去のものになりつつある。4大電力のうち3社は、送電事業をオランダ、ベルギー等の送電会社へ売却し、発電と送電の所有権の分離が進んだ。自由化前に約900社を数えた地域の配電事業者は、民営化や事業買収、合併などにより800社ほどに減少したが、公営事業の再建や地域エネルギー事業体の設立によって、再び地域の主体が担うケースが増えている。
 中央集権的で原発を国策として推進し続けるか岐路に立つフランスと、分散型電源を推進し地域の公社やエネルギー協同組合など多様なステークホルダーが発電、配電、小売事業を担うドイツ。同じEU内でも、国や社会がどのような意思を持ち、未来をデザインし選択し、実行するかによって、エネルギーシステムのあり方は全く異なる。
(記事から抜粋 P129~132)

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