人間らしく生きるための食を取り戻す(市民セクター政策機構 編集長 柳下信宏)
罰則付きの法律
「食料・農業・農村基本法改正案」とともに「食料供給困難事態対策法案」が国会で議論されている。本書が発行される時には、成立しているかもしれない。この法律は、食料供給に困難な事態が生じた場合、政府は生産者や事業者に食料の確保に向けた計画の策定を指示する。事態がさらに深刻さを増し、最低限必要な食料の確保が困難となれば、熱量の高い品目への生産転換を要請・指示したりする、という罰則付きの法律だ
やるべきことが、反対ではないか?「飢える社会」が来たときに、罰則付きの指示命令を出すのではなく、「飢える社会」が来ないようにするのが、政府の役割だ。また、経済的に追いつめられて人間らしい生活すらできない人びとは、すでに「飢える社会」を生きている。自給率を上げるための施策に加えて、誰もが人間らしく生きるための食料確保の政策が必要だ。
「食べもの」か「商品」か
「食べもの」が「商品」になり、食べものとしての使用価値より、儲けることが優先されることの問題は、本誌453号(2024年1月号)の特集「まぼろしの商品社会」でも論じた。社会学者の矢部謙太郎氏は、「健康」という記号を冠したサプリメントが「まぼろし」を生み出す構造について語っている。ところが、2024年3月以降明らかになっている紅麹サプリは「まぼろし」であるどころか、大規模で深刻な健康被害事件を「実際に」引き起こしてしまった。原因は当該製品の製造管理の問題、対応が遅れた問題、トクホと比較した機能性表示食品の制度問題、だけではない。これらを引き起こしたのは、食品と医薬品の間のグレーゾーンにおいて、儲けを最大化しようとしたシステムなのではないだろうか。
食を自治する
食の領域についても、非人間的なシステムを縮減し、人と人が連帯する自治的なあり方を目指していかなければならない。本号の経済学者、平賀 緑氏の論考(68ページ)で触れている「コモンズとしての食」を広げていきたい。そのためには、生産と消費が対等な立場でつながることが、重要な鍵である。そして、生き残るための「対等互恵」をテーマとした。本号における論考や事例を参考に、食の自治に向けた取り組みにつなげていただければ幸いである。
(P.4-5記事全文)