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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

誌上討論 持続可能な生産と消費とは
①お互いに支え合う関係が未来につながる(農業生産法人(有)王隠堂農園 取締役 王隠堂正悟哉(まさや)さん)

【発売中】季刊『社会運動』2024年7月発行【455号】特集:飢える社会が来た ー生産者と消費者の対等互恵で生きのびる

すべてが「持続可能ではない」現状

 

 王隠堂家は代々、奈良県吉野郡西吉野村(現五條市西吉野町)の中山間地で、山林も持ち、畑も耕す半林半農の暮らしを続けてきました。現在、王隠堂農園では、梅、柿の生産だけでなく、梅干しや干し柿などの農産加工も含めて運営しています。
 父、王隠堂誠海は、農業に従事してまもなく母(私の祖母)が農作業中に散布した農薬で体調を崩してしまったことや、有吉佐和子さんの著書『複合汚染』が話題になった時期だったこともあり、このままではいけないと農薬をできるだけ使わない農業へ転換。産直事業を開始し1984年に「王隠堂農園」を立ち上げ、法人化しました。田舎では農協に出荷しない農家などなかったため、地元農家からは非難の的でした。けれども考えを同じくする数軒の農家と共に、泉北生協(現エスコープ大阪)に出会ったことで、生協産直を始めることができたと聞いています。現在、王隠堂農園グループでは産直事業の他、BtoC事業の「農悠舎 王隠堂」を立ち上げ、梅干しを始めとする加工品や有機野菜等の通販、レストラン、研修生の受入、里山暮らし体験の企画・運営等を行っています。また、加工事業の新たな取り組みとして、カット野菜・カットフルーツの製造を行う「株式会社オルト」、フリーズドライ製品の製造を行う「株式会社ポタジエ」を立ち上げ、自分たちの生産物を余すところなく食べてもらえる仕組みをつくっています。
 いま、第一次産業の危機だと言われていますが、実際に生産現場を見渡すとすべてが持続可能ではない状況です。まず人手不足です。高齢化が進み、若者が都会に出ていき、奈良県五條市のある紀伊半島はすでに過疎地域になっています。さらに、段ボールやプラスチックのコンテナなどの資材コスト、燃料代、肥料代、人件費の値上がりも生産者にとっては痛手となっています。この4月からは、ものが運べなくなる「物流の2024年問題」もあり、たとえ収穫できたとしてもいままで通りの日数、時間で消費地に持っていくことすら難しくなるでしょう。気候温暖化の影響ももちろん大きな脅威です。いろんな要因が農業を持続可能な状況から遠ざけてしまっています。残念ながら、国の政策にも期待はできません。

(P.9-11記事抜粋)

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