①オルタナティブ・フードシステムの現在地(千葉商科大学人間社会学部准教授 小口広太さん)
持続可能なフードシステムへの転換
現代のフードシステム(生産から消費、廃棄に至る食料・食品のトータルな流れ)は、グローバル化かつ複雑化している。本稿で取り上げるオルタナティブ・フードシステムは、ショートサプライチェーン、ローカルという生産地との距離の近さ、品質や地域性、多様性、持続可能性、有機農業(オーガニック)の重視などが特徴として挙げられる。経済合理性、効率性の追求によって見落とされてきた価値を再評価する動きである(注1)。
日本では高度経済成長期以降の都市化と産業化を背景に、農業の近代化が推し進められ、生産と消費の現場が大きく再編された。1980年代後半以降、輸入農産物が急増すると、離農者の増加や農業経営の存続困難が一層進んだ。その後も自由貿易と規制緩和によって国際競争を強いられている。
このような状況に対し、生産者と消費者が自らの手で新しい流通をつくり上げてきた。例えば、有機農業運動から生まれた信頼関係にもとづく提携運動、生活クラブによる消費材の開発と共同購入運動、農家の暮らしを見直す農産物自給運動は、1970年代に広がりを見せた先駆的な実践である。1990年代以降になると、環境問題や食の安全、ライフスタイルの変革などへの関心の高まりから、「地産地消」(地場生産?地場消費)のようにローカルな食と農のつながりが各地で生まれた。
この間、食料自給率は低下し、いまだ40%にも満たない状況が続いている。コロナ禍やウクライナ危機で食料不安が高まったが、その中でも気候危機(地球沸騰化)の影響は深刻である。同時に、フードシステムのグローバル化は気候危機を促す主要因でもある。こうした点からも、持続可能なフードシステムへの転換が求められている。
ここからは、フードシステムのローカル化に焦点を当て、農村と都市それぞれの動きと今後の課題について見ていこう。
(P.89-P90記事抜粋)