生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

他人事となった食を自分事として捉えなおすために


生活クラブ生協・神奈川 常務理事 市民セクター政策機構理事 希代 監

1992年生活クラブ生協神奈川に入職。2021年より同生協常務理事。
将来世代にどんな社会を残せていけるか模索している。


 日本の食と農の未来はあるか? 『社会運動』の読者であれば、いまのままでは大変厳しい情勢であると答えるのであろうか。世間一般の答えはどうか、未来は、と問われても大半の方にはなかなか難しい問いであるかなと思う。
 私たちのまわりにはあらゆる食が溢れている。スーパーに行けば野菜も肉も選び放題、インターネットを介せば日本全国・世界中から、ちょっとこだわった品も手に入れることができる。外食だって、和洋中・無国籍料理と何でもござれだ。
 ぼんやりとした不安はある。コロナ禍から不安定な世界情勢は続き、長い間課題とされている日本の食料自給率38パーセントという事実が、農業・酪農の危機として報道されている。何より食を中心にモノの価格が上がっていることが、不安や課題を一番実感することであろう。
 上述したとおり食は身近に溢れている。危機と言われても牛肉、牛乳は相変わらず問題なく買える。値上がりしたって探せばより安く買える所はある。野菜のほとんどは国産だが肥料と種はほぼ輸入。輸入が止まれば野菜は作れない。そもそもつくり手となる農家が年々減少している……そう言われても、頭でわかっていても、自分のまわりに実態がないのである。だから未来を問われてもその答えは難しいのかも知れない。
 だが、難しいで止まっていては思考停止と筆者は問う。飽食の時代と引き換えに他人事となった食を自分事として捉えなおす。そのためには意識や関心や共感から距離が開いてしまった食と、食を構成し織り成す上で重要な農に対する距離を縮めていくことが必要であろう。
 本書のテーマは「食と農のつながり」である。食と、食の基本となる農は密接な関係にある。いわば私たちが生きるために必要不可欠な食べることの持続可能性を考えるときに、農の持続可能性を考えていくことは必然であり、本書ではそのことへのアプローチをデータとともに日本各地の実践例が報告されている。


生産者と消費者がつながり、
共につくる取り組みが重要だ


確かに、日本の食と農を取り巻く課題は大きい。大切なのはそのネガティブイメージだけで止まらないことである。日本の地域に目を落としていけば課題に対するアプローチやチャレンジはあるし、一歩ずつだが進んでいる。
農家の数は全体では減少している。新規就農者は一定数あるが高齢化等による離農者のペースがはるかに上回るためだ。一方で、非農家出身の新規就農者は若い世代が中心だ。就農者全体に占める割合は低いが、若い世代が多くなっていることは次につながる希望である。非農家出身の新規就農は、農業という国内自給を支える社会貢献とともに、地域とつながり活性化させていく地域貢献の想いが強いとのこと。この思いを受け止め、広げて、力にしていくために地域で生産者と消費者がつながり、共につくる取り組みが重要である。
食と農の未来を考えることを自分事として引き寄せていくために、グローバルで一面的な課題にとらわれるのではなく、ローカルで身近な課題に取り組んでいく必要があるのだ。生産―消費という一方通行的な枠組みではなく、生産者と消費者のつながりによるローカルなフードシステムを拡大していくことが、新しい生産者を支え、農に関心を持つ消費者(市民)を増やし、そして地域の環境、経済、社会を豊かにすることに繋がっていくのである。
日本の食と農の未来はあるか。私たちの食と農に対する意識や行動をもっと身近に引き寄せていければ、そのポテンシャルは十分にあると本書を読んで感じた。

(P.120-P.121記事全文)

 

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