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市民セクター政策機構

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ボトムアップ民主主義の時代「新たな段階を迎えたLIN-Net」
(政治学者・市民セクター政策機構客員研究員 岡田一郎)

【新刊】季刊『社会運動』2024年7月発行【455号】特集:飢える社会が来た ー生産者と消費者の対等互恵で生きのびる

 保坂展人世田谷区長や杉本聡子杉並区長のように、政党や組織が擁立し、上から住民に押しつける首長ではなく、住民自らが住民の中から候補者として選び、選挙で選出した首長(保坂氏の言うところのボトムアップ型首長)や自治体議員、研究者などのゆるやかな集合体である「Local Initiative Network(LIN-Net)」の第7回ミーティングが2024年4月20日に日本教育会館で開催された(参加者は会場で約350人、オンラインで200人)。
 LIN-Netはこれまで、ミュニシパリズム(地域主権主義。新自由主義の浸透によって民営化された社会資本を市民の手に取り戻そうという考え)を旗印に、ミュニシパリズムの考えの紹介や統一自治体選挙に臨む若い候補の紹介といった活動をおこなってきたが、政治団体とは一線を画し、候補者に推薦を与え、自分たちのグループに所属する議員を増やすといった行動はおこなってこなかった。しかし、第7回ミーティングでLIN-Netは政治団体となることを宣言し、7つの目標を掲げ、それを実現するために基盤を充実することを目指すことを決定した。
 7つの目標とは、①参加と共有の場を広げる(今後も年2~3回のミーティングを開催するということ)。②LIN-Netが掲げる「地域主権とコモンをめざす政策」を実現する(「パートナーシップ制度」といった全国の自治体や「学校給食の無償化」といった国政でおこなうべき政策の実現を目指す)。③LIN-Netに賛同する首長を増やす。④LIN-Netに賛同する自治体議員を増やす・パリテ議会を増やそう(パリテ議会とは男女半々議会のこと)。⑤喫緊の課題に対する提言・申し入れ・キャンペーンを行う。⑥LIN-Netに賛同する方々の交流・経験共有を深める。⑦ユースチームの形成(若い世代(10~30代)を中心にチームをつくり、若者の視点での政策課題や問題提起をおこなうしくみをつくる)。以上の7つである(カッコ内の文言は岡田の解説)。


LIN-Netの地域的拡大を予感させるもの


 第7回ミーティングはさらにLIN-Netの地域的拡大を予感させるものとなった。これまでの東京西部の首長だけでなく、第7回ミーティングでは玉城デニー沖縄県知事を招き、普天間基地の辺野古移転(という名の辺野古新基地の建設)の問題点および国による代執行についての講演とそれに関する討論がおこなわれた。
 これまでのミーティングとは異なり、地方自治法改正案反対という国政的な話題についても話し合われたのも、LIN-Netがローカルな組織から脱皮する象徴のように思われる。今国会に提出された地方自治法改正案は大規模災害や感染症のまん延などといった国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、または発生する恐れがある場合に、特例として閣議決定をもって国が地方自治体に「補充的な指示」をおこなうことが出来るようにするという内容である。しかし、災害、感染症まん延などには個別法による国の関与も十分可能で「補充的指示」の必要な立法事実は存在せず、この改正案は国と地方自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」へと変化させた2000年の地方分権一括法による改革を逆行させるものとして、LIN-Netは反対を表明したのである。このような考え方の背景には、上意下達型の政治を排し、ボトムアップ型の政治を目指していこうというLIN-Netの姿勢がうかがえる。


全国的にボトムアップ型首長を増やす活動を


 さらに、第7回ミーティング内でおこなわれた分科会(参加者が討論に参加出来る6つの分科会が開催された。ちなみに岡田は地域主権〈ミュニシパリズム〉を実現するための戦略という分科会に参加した)に参加し、参加者と対話した印象では東京都西部だけでなく、千葉・神奈川・山梨など幅広い地域から参加者がやって来ており、ゲストだけでなく参加者の面でも地域的広がりが始まっているという印象を受けた。
 以後、LIN-Netはミュニシパリズムの考えに賛同する首長や自治体議員の支援に乗り出し、東京都西部だけでなく全国的にボトムアップ型首長を増やす活動をすすめていくことだろう。このようなLIN-Netの発展を見ていると、私はかつての革新市長会という存在を思い起こしてしまう。
 革新市長会とは革新政党(日本社会党や日本共産党)の支持を受けている市長の集まりで、当初は飛鳥田一雄横浜市長を囲む小規模な会であったが、革新自治体の拡大に伴って拡大を続け、1973年には132市長が参加する巨大組織に膨れ上がり、国政にも大きな影響力を発揮した。しかし、飛鳥田市長が社会党委員長となり、国政に復帰すると、革新自治体の勢いが衰えたこともあって、急速に発言力を失い、1990年代には自然消滅したと言われる(革新市長会については、功刀俊洋「全国革新市長会の結成」「全国革新市長会の後退」『行政社会論集』(福島大学)第34巻第2号(2021年11月)・第34巻第4号(2022年3月)参照)。
 LIN-Netは自治体議員や若者の組織化を目指していることから、革新市長会よりも幅広い組織を目指しているようにみえる。その意味でLIN-Netが革新市長会の生まれ変わりだとは思わない。ただ、革新市長会の歴史からLIN-Netが学ぶべきことは保坂展人区長・岸本聡子区長というカリスマに依存することなく活動を続けて欲しいということである。保坂氏も岸本氏も永遠に区長を続けるわけにはいかないし、国政へという話も出て来るかもしれない。また、思ったようにボトムアップ型の首長や自治体議員が増えていかないという局面を迎えるかもしれない。そのときに、雲散霧消しないようにミュニシパリズムの思想を会員の間で深め、ちょっとやそっとでは会員の動揺を招かない体質を作り上げることが大切である。また、参加する自治体議員には若い方が多いように見えたが、一般参加者は年配の方が多いような印象を受けた。若者の中には社会に対して漠然とした不安や反発を抱えながら、どうしていいかわからない人々が多いと思われる。そういう若者を組織化し、その中から保坂・岸本氏に続く次代の指導者を生み出していくよう努力する必要があるのではないだろうか。

(P.126-P.129記事全文)

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