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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

 いまに始まったことではないが、日本の社会運動は盛り上がりを欠いている。デモなどの直接行動に対する “世間”の目も冷ややかで自分たちの力で政治を変えられると思っている人など、ごくわずかだ。これほどまでに国の経済が傾き、所得格差が拡大し、弱者に対するセーフティネットが崩壊しても、誰かが何とかしてくれるだろうという“おまかせ民主主義”がはびこり、政権交代さえ成し遂げられずにいる。

 一方、韓国の社会運動はダイナミックだ。例えば、2016年から17年、朴槿恵大統領の退陣を求めて展開された「キャンドル革命」では、半年にわたり毎週末にデモが行われ、最終的には数百万人が参加する大規模な運動に発展。結果的に朴大統領は弾劾され、大統領職を追われた。なぜ、そんなことができたのだろう。

 『韓国社会運動のダイナミズム』は、韓国の政治文化と密接な社会運動の多様な姿を、まとめた一冊だ。#MeTooなどを通じ急速に広がった女性運動、移民政策と外国人労働者の権利運動、政権交代や革新系首長のもとで進んだまちづくりへの市民参加、コロナ禍で苦境に立たされたエッセンシャルワーカーの権利を求めた運動、社会保障の持続可能性をめぐり現実的に議論されるベーシックインカム論争という、5つの切り口で、日韓の研究者とアクティビストが論じている。

 いずれの課題も日本に共通するものだが、それに立ち向かう社会運動のあり方は大きく違う。この違いがどこから来るのか。考察のベースとなるのが、恵泉女学園大学・人間社会学部の李泳采教授による20数ページの「序章」だ。人びとが熱く政治に関わり、直接的なアクションをいとわない韓国の政治文化がどのように形作られてきたのか、それを理解するのに欠かせない歴史背景や、運動が一定の成果をあげた後のこと、現在の問題点と今後の課題が、丁寧かつわかりやすく整理されている。

 1953年、朝鮮戦争の休戦協定が成立したあと、約30年間続いた軍事独裁体制下では、政府の暴虐に対し人びとがしぶとく抵抗して民主主義を勝ち取ったこと。1987年の民主化以降も政権交代が繰り返され、そのたびに社会が激変してきたこと。世代によって経験したことが大きく異なり、価値観の差が大きいこと。それでも人々の間には権力行使の正当性への批判的精神が脈々と受け継がれていること。こうした流れを掴んでおくことで、それぞれの運動の解像度が上がる。あとは自分が気になるテーマから読み進めていけばいい。

(P.126-P.127 記事抜粋)

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