「むしやしない」という京ことばと昆虫食 国際ジャーナリスト 堤未果
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京都に引っ越して初めて出会った、「むしやしない」という言葉がある。
漢字で書くと「虫養い」。
お腹の中にいる虫の食欲を満たすために、一息入れて軽い食事をとりたい時、京都人はこんな風に声をかけるのだ。
「ちょっと、むしやしない、しよか?」
一方、コロナ禍の一時期マスコミが、〈SDGsキャンペーン〉を繰り広げていた、食べる「虫」の方はどうだろう?
現在世界では、1900種類を超える昆虫が食料になっている。
家畜に比べて昆虫は、養殖のために必要とする餌も水も土地も遥かに少ない。二酸化炭素排出量は、牛1キロにつき2・8キログラムの二酸化炭素を出すのに対し、虫ならわずか2グラムだ。
推進派はさらに、昆虫には感覚がないので「動物福祉」の面でも貢献するという。
2050年に100億人を突破する世界人口を養うために、代替タンパクとして国連食料機関(FAO)が2013年に呼びかけたのを皮切りに、〈SDGs(持続可能な開発)計画〉の新たなビッグビジネスとして、昆虫食は財界や投資家たちに注目されてきた。
国連が世界共通目標を達成する行動を呼びかけ、加盟国政府がそのプロジェクトにまとまった税金を投じるからだ。
2030年には8600億円という規模に膨れ上がるとされるこの超有望市場を日本政府も推進し、〈昆虫食〉は持続可能な未来食料として内閣府の〈ムーンショット計画〉(2050年までに身体や脳など、さまざまな制約から人々が解放された社会を実現する計画)にも組み込まれている。
(P.130-P.131 記事抜粋)