③新連載 韓国の社会的協同組合のいま① サリム医療福祉社会的協同組合 株式会社異路(IRO, inc.) 代表取締役 上前万由子
【新刊】季刊『社会運動』2024年10月発行【456号】特集:社会的経済に向かう韓国市民運動 ー『韓国協同組合運動100年史』翻訳出版記念
前述の社会的協同組合の具体例として、医療・介護分野で活躍するサリム医療福祉社会的協同組合(以下サリム)を紹介する。ソウル市恩平区に拠点を置くサリムは、フェミニズムの視点を取り入れた医療・介護サービスを提供している。今回は、常務理事の兪麗園さんから、その理念や活動内容、そして未来への展望についてお話を伺った。
ケア労働を評価するサリムの理念
― サリム設立の経緯について教えてください。
サリムは2009年に「女性主義医療生協(準備会)」として活動を始め、2012年2月11日に正式に設立されました。設立の主な理由は、既存の医療システムの問題点を解決し、より人間的で包括的な医療・介護サービスを提供したいという思いからでした。
私たちは、医療が単に病気を治すだけでなく、人びとの健康と生活全体を支えるものであるべきだと考えました。さらに、地域コミュニティのなかで人びとが互いに支え合い、健康な生活を送れるような仕組みづくりも目指しました。
― 「サリム」という名前には、どのような意味が込められているのでしょうか。
「サリム」という名前には二つの意味があります。一つは「生命を生かす」「人を生かす」という意味です。もう一つは、韓国語で女性たちが主に担ってきた家事労働を指す言葉です。この名前には、生命を生かすことと、フェミニズムの理念を大切にし、ケア労働や家事労働の価値を高く評価するというサリムの理念が込められています。
― 一般の医療機関との違いはどのような点にありますか。
最大の違いは、良い医療者を育てる組合員の存在です。組合員たちが無利子で出資金を出し合い、医師たちが経済的な心配をせずに診療できる環境を作っています。
また、いわゆる一般の医療機関と協同組合型の医療機関では、医療者と患者の関係性が異なります。韓国の医療制度では、診療行為ごとに報酬が決まっているため、必要以上の診療や投薬が行われる傾向があります。サリムでは、患者の本当の健康を考えた診療を心がけています。信頼関係に基づいて、過剰な投薬を避け、じっくりと経過を見守ることができるのです。
また、医療と介護の連携を強化し、総合的なケアを提供することで、既存の制度の問題点を補完しています。
(P.60-P.61 記事抜粋)