生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

①協同組合アイデンティティ改定の協議と2025国際協同組合年 
伊藤治郎(一般社団法人日本協同組合連携機構 常務理事)

【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年1月発行【457号】特集:いまこそ、協同組合の出番 2025年は国際協同組合年

1.はじめに


 2021年12月、国際協同組合同盟(ICA)は、第33回世界協同組合大会(ICAソウル大会)を開催し、「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」(以下「アイデンティティ」)の改定に関する世界的な協議を開始することを提起した。その後の世界の協同組合関係者による協議とICAにおける検討を経て、2024年11月にインドのニューデリーで開催されたICA総会で、アイデンティティの改定案が提出され、今後この改定案をもとに、国際的な議論が行われることが確認されている。

 また、国連は2023年12月19日、第50回本会議で2025年を2012年に次ぐ2回目の国際協同組合年(IYC2025)とすることを決議した。

 本稿では、アイデンティティ改定の議論の経過を振り返り、IYCを迎えた2025年、今後どのように検討が進められていくのかを読者の皆様と共有し、今後の議論の参考にしていただくことを目的としたい。

2.協同組合アイデンティティ改定の国際的議論


〈前回改定以降の状況の変化〉


 ICAソウル大会のテーマは「協同組合のアイデンティティを考える」であった。同大会における討議資料「協同組合のアイデンティティを考える」では、前回アイデンティティ改定が行われた1995年以降の変化について以下のような状況を挙げている。

  • 技術革新・デジタル化による事業や取引の変化
  • ギグ・エコノミーと呼ばれる若者の不安定な労働形態
  • グローバル化や技術革新のなか格差の拡大
  • 気候変動の非常事態ともいうべき進行
  • 先進諸国での高齢化・人口減少、景気停滞の危険性
  • コロナ禍による経済の混乱、仕事の形態の変化、セーフティネットの穴の顕在化
  • 女性への教育機会の増大、女性が生産活動やコミュニティ運営で公平な立場を得られるようになった
  • 多様性・平等・社会的包摂などがスローガンに掲げられるようになった
  • 環境・社会・ガバナンス(ESG)が企業の関心事となり、社会的企業や「Bコーポレーション」などを含む目的志向の投資家所有企業が生まれてきた
  • 企業の実践や規範を採り入れ、組合員との距離ができ、破綻や株式会社化に至る協同組合もある

これらの状況の変化を受けて、討議資料は「さらに改定が必要かどうか、あるいは、おそらくより大きな解釈の支えを得ながら声明は目的にかない続けるのか、問うべき時が来た」と問題提起している。

〈改定案の検討経過〉


 ICA理事会は、研究者、リーダー、実務家からなる組織「協同組合アイデンティティ諮問グループ」(CIAG)を任命し、改定案をICA理事会に提出することを依頼し、世界的な協議が始まった。

 ICAが各国の協同組合関係者に対して実施したオンライン意識調査では

  • 協同組合関係者の間ではアイデンティティの中で、原則に対する認知度は高いが、定義・価値への認知度は高くない
  • 協同組合を他の企業モデルと区別する特徴は、協同組合運動の枠を超えてほとんど知られておらず、誤解されていることが多いという懸念
  • 現声明は時を経ても色あせることなく、全体として目的に適ったものであるという広範な合意
  • 声明に磨きをかけ、変化する世界において引き続き適合していることを確保したいという多くの人々の願い

 そのほか、協同組合の価値や原則をテーマにしたウェビナーの開催や、オンライン上での意見交換などを経て、各国に対し意見の提出を求めた結果、2024年5月時点で日本を含む10カ国から意見提出があった。

(P.11-P.13 記事抜粋)

記事タイトル:協同組合アイデンティティ改定の協議と2025国際協同組合年 執筆者:伊藤治郎 氏(一般社団法人日本協同組合連携機構 常務理事)

インターネット購入