①-1.生活クラブの希望の未来を展望する ―「生活クラブ組合員の暮らしと共同購入についてのアンケート」から
①-2.多様なつながりをつくり出し組合員活動を広げる
加瀬和美(生活クラブ生協・東京理事長)
鳥山直人(生活クラブ生協・埼玉常務理事)
【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年1月発行【457号】特集:いまこそ、協同組合の出番 2025年は国際協同組合年
今回の調査から見えた生活クラブの組合員の現状やニーズをどう受け止め、今後の活動にどのような可能性が展望できるかを、加瀬和美さん(生活クラブ・東京 理事長)と鳥山直人さん(生活クラブ・埼玉 常務理事)に話し合っていただきました。
変化する組合員のくらしと活動スタイル
―今回の調査でどのような点に注目しましたか。
加瀬 生活クラブの組合員は一般的な意識調査や日本生活協同組合連合会(日本生協連)の調査の結果と比べて社会的な関心が高く、それは過去2回のアンケートと変わらない特徴の一つです。「戦争・紛争」「食料自給」「気候変動」「エネルギー・原発」「介護問題」などを幅広く社会問題として認識していることがわかりました。加えて、加入の動機を「生活クラブの理念に共感したから」と答えた人が全体で18・3%いました。私自身は組合員活動のなかで理念を理解していったので、加入前から生活クラブへの共感があるのはすごいことだと思います。
鳥山 この調査は2030年頃を展望した各単協の中期計画づくりに活用することを目的にしていたので、今回は49歳以下の回答の分析に力をいれました。このグループでは、生活クラブを知るルートとして「親や親戚が組合員である」と答えた人が35%以上いました。生活クラブの消費材を利用して育った人たちが加入しているのです。一方で、その世代の多くは、添加物や遺伝子組み換えなど食への関心は高いのですが、人とのつながりへの関心が薄い傾向があり、自分が利用してよかったことを知人に伝えるなど、生活クラブのことを自ら発信するには至っていないようです。
加瀬 生活クラブに加入しても、「日常生活で困ったときにすぐ相談できる窓口ができた」と思っていない人が全体でも半数以上いることが大変気になりました。私は転居のたびに新しい地域での生活クラブの人や活動のつながりが人間関係の基点になっていたので、生活クラブで活動している人のところに相談にいけば、そこから先もちゃんとつながるだろうという安心感がありました。生活クラブが頼りになる存在だと認識されていないのは、生活クラブを通して地域に知り合いができ、不慣れな地域でも安心感があるといったことを、新しい関係を求める人に働きかけられていないのでしょう。人とつながる機会を積極的に生み出して、「生活クラブに入ってよかった」と、思える組織にしていきたいですね。
―過去の調査結果と大きく変わった点はありますか。
加瀬 組合員が無職または専業主婦である割合が、第1回(2012年)の調査では52・2%、第2回(2017年)は29・5%、今回は20・3%と、この10年で大きく変化しました。49歳以下の組合員のうちフルタイムで働いている人は31・5%となり、逆転しています。平日の日中に開催する学習会や生産者交流会などへの参加や、委員会活動などがむずかしくなっており、夜や週末に開くといった工夫をして、新しい人が参加できる道を広げている例もあります。また、コロナ禍の影響もあり、オンラインという新しい活動スタイルが定着しました。
鳥山 そうですね。ただオンラインだけでは、お互いに信頼関係を築くようなコミュニケーションが難しいと感じることもあります。オンラインでの企画や会議は終了とともにプチッと切れてしまいます。効率的ですが、会議のあとの雑談から何かが生まれることもあります。直接的な関係とオンライン参加の兼ね合いを模索中です。
加瀬 生活クラブ・東京では、コロナ禍に消費材開発のプロジェクトをオンラインでやってみました。委員ではない組合員が何人も自発的に手を挙げてプロジェクトに参加してくれたのには驚きました。固定したメンバーで定期的に話し合いを続けていくと、オンラインであっても関係性は深まります。ただ、消費材討議はみんなで集まって食べることが大事で、画面越しの試食では同じものを同時に食べていてもどこかもどかしかったです。オンラインとオフラインを上手に組み合わせることで、新しく出会えた人たちとも活動していけると感じています。
キーワードは「つながり」と「居場所」
―どのような組合員活動の方向性を感じましたか。
鳥山 今回の調査から見えた今後の組合員活動のキーワードは「つながり」と「居場所」です。子育て世代から高齢者まですべての世代の人が、それぞれのライフステージに合わせた地域活動の場づくりを生活クラブに期待しています。子育て支援では「子どもの居場所」「学習支援」、福祉活動では「地域の居場所や活動する場づくり」、社会的弱者への支援では「こども食堂・地域食堂」「居場所づくり」など様々な活動が挙げられます。いずれも組合員が地域の福祉機能の主体になる可能性があると思います。このような活動への組合員の意識が高いことは過去の調査でも一貫しています。
加瀬 個別配送では組合員どうしが日常的に顔を合わせる機会がないので、近所に住んでいる組合員と知り合うことができていません。生活クラブ・東京では、東日本大震災をきっかけに、小さな単位での人のつながり(コミュニティ)を地域につくる活動を展開しています。生活クラブ運動グループとも連携して、居場所づくりなどに広げていきたいとも考えています。
また、デポー(店舗)を拠点にいろいろなことができるのではないかと思っています。この調査でデポー組合員の多くは消費材のおいしさや安全性などには満足しているが、デポーが地域の拠点であるとか、自分がかかわる場所だという意識はなかなか持てていないことがわかりました。デポー組合員へ生活クラブの情報をどう届けるかが課題です。デポーには組合員が集まって話せる場所もあり、試食会もできます。生活クラブの強みを生かす活動の可能性がたくさんあります。
(P.89-P.93 記事抜粋)