子どもの未来を育む社会的協同組合 ソリナンヌ保育園
上前万由子(株式会社異路(IRO)代表取締役)
【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年1月発行【457号】特集:いまこそ、協同組合の出番 2025年は国際協同組合年
大都会ソウルの喧騒から少し離れた場所で、子どもたちの声が響き渡る。笑い声、歌声、時には泣き声も。高層ビルの林立する都心部とは対照的に、一軒の家のような建物がある。ここが「ソリナヌン保育園」こと、「恩平共同保育社会的協同組合」である(以下ソリナヌン保育園)。
ソウル市恩平区に位置するこの保育所の名前には、「子どもたちの笑い声がたくさん聞こえれば幸せでしょう?」という思いが込められている。建物の裏手に広がる山の緑と、子どもたちが自由に遊べる広々とした砂場は、この保育所の自慢だ。都市の喧騒を忘れさせるような、のびのびとした空間がそこにある。園庭を持たない保育施設も多いソウルにおいて、子どもたちが毎日自然と触れ合いながら過ごせるこの環境は、まさに貴重な光景と言えるだろう。
1996年に設立されたソリナヌン保育園は、韓国における共同保育運動の先駆けの一つとして、約30年の歴史を刻んできた。子どもたち、保護者、保育士が共に育ち、共に生きる—―そんな理念が、日々の保育の中で実践されている。
今回は、ソリナヌン保育園にかかわる4人の方々にお話を伺った。現在6歳の子どもを通わせているコミジュル(蜘蛛の巣)さんとパド(波)さん、3人の子どもを卒園させた経験を持つタルビッ(月の光)さん、そして11年間ソリナヌン保育園の保育士として働くハニさんだ。なお、ソリナヌン保育園では、共同保育の理念に基づき、人びとの関係性をより親密かつ水平にするためにニックネームを使用する文化がある。このインタビューでも、その文化を尊重し、回答者の方々にはニックネームで登場いただいている。
のびのびと育つ環境づくり一人ひとりに寄り添った保育実践
―一般の保育園との違いについて教えてください。
コミジュル 最も大きな違いは、保育士と子どもの比率です。一般の保育所では3歳児クラスの場合、保育士1人に対して最大15人の子どもを保育します。ここでは現在、定員20名に対して、常勤職員2名、補助職員3名がいます。現在の在園児数は17名で、一般的な基準よりもさらに少ない配置基準を採用しているため、子どもたちにしっかりと寄り添える環境があります。
保護者が保育の現場に入れることも大きな特徴です。韓国の一般的な保育所では、保護者は玄関で子どもを預けるだけ。中でどのように過ごしているのかを見ることができません。でも、ここでは保育の様子を直接見ることができます。保育士が休暇を取る際には、保護者が代わりに保育に参加することもあります。
また、他の保育所との大きな違いの一つは、監視カメラがないということです。ソリナヌン保育園では、みんなの同意のもとCCTV(監視・防犯カメラ)なしで運営しています。そのため、先生たちや他の保護者、子どもたち同士の信頼関係がとても厚いと感じています。
パド 時間的な設定も、一般の保育所と大きく異なる点だと思います。一般的な保育所では30分や40分単位で活動が区切られていますが、ここでは食事や昼寝の時間以外は、子どもたちが自由に遊べる長い時間が確保されています。
(P.154-P.155 記事抜粋)