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クルド人差別と排外主義の新たな担い手たち
瀧 大知(外国人人権法連絡会事務局次長)

【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年1月発行【457号】特集:いまこそ、協同組合の出番 2025年は国際協同組合年

 1990年代前半、「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人が来日するようになった(注1)。クルド人は祖国のトルコで迫害の対象となってきた。そのため日本に逃れてきた。埼玉県南部の川口市や蕨市に集住、約2000人が暮らしている。他方、この地域を舞台に排外主義が急速に拡大/浸透している。きっかけは2023年6月に国会で可決された─難民申請中でも強制送還を可能にする─改定入管法であり、同法の議論が始まると難民申請者の多いクルド人が報道等で注目された。これによりレイシストらが「発見」したと指摘されている。

 インターネット上には「クルド人は危険」「川口/蕨市は外国人犯罪が増加」「出ていけ」「死ね」などのヘイトスピーチが溢れている。排外主義団体のデモ/街宣も行なわれている。差別者は地域外の人びとであるといわれており深刻な被害も発生している。

 先にいえば、当該地域は「危険な街」ではない。刑法犯の認知件数は激減、川口市役所も「外国人犯罪が多いとの認識はない」と述べている。騒音やゴミ問題といった摩擦はあるが、それは地域住民間で解決する課題である。まして外部の人間が排除を主張する理由にはならない。

 このような事態は従来のヘイト/レイシズムと地続きではあるが、差別的な政治家や排外主義団体、ネットの有象無象の他に新しいアクターも介在している。本稿ではこの存在に着目し、クルド人差別拡大の一端を描写したい。

排外主義の舞台に上がる新たな存在


 新たな排外主義の担い手、それはSNSやYouTubeで数多くのフォロワーがいるインフルエンサーである。

 青汁のネット通販がヒット、通称「青汁王子」で知られる三崎優太は、Xに「川口市でのクルド人問題で、結婚式を駐車場でやったり、見境なしのナンパなどトラブルが急増してる。日本で暮らすなら、日本の法律やルールを守るのが当たり前だろ。不法滞在とか犯罪だし、法律を守れない人は速やかに強制送還されるべき。」(アカウント名「三崎優太(Yuta Misaki)MISAKI @misakism13」2024年5月6日14時19分 ※以下、引用ポストは2024年10月25日閲覧)と投稿した。

 2024年8月、迷惑系YouTuberとして有名なへずまりゅうはXに次のように書いた。「中国人やクルド人を許してたまるか。 日本の制度を悪用して日本に滞在しやがって舐めるなよ」(「へずまりゅう原田将大(山口県代表)@hezuruy」2024年8月11日19時55分)。その後、「今有名になりたい底辺YouTuberに声を掛けていて30人〜50人集めてクルドパトロールをしていきたいです」(2024年10月17日17時38分)「川口市在住の方からDMで迷惑だから辞めろと言われたが正気なのか?疑問に思いました。いつまで悪質なクルド人に怯え住み続けるつもりなのか?」(2024年10月20日19時35分)とポスト、「パトロール」の予告をした。

働きかけるその力─インフルエンサー


 インフルエンサー(=世間に大きな影響力を持つ人物)は言葉通り、強い影響力を持つ。数的な面だけでもそれが窺える。Xのフォロワー数は川口/蕨市でデモや街宣を続けている排外主義団体「日の丸街宣倶楽部」代表の渡辺賢一が2024年10月末現在で約5500、対して三崎は約160万、へずまは23・5万である。必然的に投稿の閲覧者数も桁違いとなる。

 こうした人びとに直接的な働きかけが可能な力を一次的な影響力とすると、もう一つ見逃せないのはその余波=二次的な影響力である。

 近年、ネットメディアを中心に芸能人のSNS投稿が記事化されるようになっている。三崎やへずまの投稿もスポーツ新聞(注2)が配信、Yahoo!ニュースにも掲載された。つまり有名人であるとメディア側が拾い、拡散してくれるのである。有名性によるメディアの「メガホン化」といえるだろう。

 ただし、三崎らのポストは単なる芸能人の炎上ではない。差別煽動が伴う。だが、これら芸能人SNSネタの記事は無批判に紹介するか、「賛否の声がある」という両論併記で締め括くられるのがパターンである(三崎やへずまの記事も同様)。主張の妥当性は検証されない。「垂れ流し」となる。それは差別やデマの放置→拡散→煽動→再生産/固定化につながる。実際にへずまの記事が載ったYahoo!ニュースには、差別行為の正当化と賞賛、さらなる煽動のコメントが書き込まれていた。「もしクルド人撃退できたらヒーローと呼ばせてもらいます!」「日本人はもっと細かい部分で外国人を警戒した方がいい。」(2024年10月19日21時7分閲覧)。

問われる「有名人」の発信と責任


 影響力の高い「有名人」の影響力は計り知れない。だからこそ、その人びとによる差別/排外主義の煽動は無視できない。同時に一般人がそれに抵抗するのは容易ではない。「有名人」の権力的な作用を論じたP.D.マーシャルは「(筆者注:「有名人」は)公的領域において、ある一群の人びとは他の人々よりも大きな存在であり、広範囲な活動とより大きな影響力を有している。(中略)それ以外の人々が人口統計学的な固まりとして存在するのと対照的に、彼/彼女らは個人として比類なき存在として、自身を表現することが許されている」(pⅵ)という(注3)。

 芸能人が多数出演するインターネット番組「ABEMA Prime」では、2024年2月22日に「埼玉×クルド人に今何が?『取り締まり強化』対象は?多文化共生は可能か考える」を放送した。2023年6月29日、川口市議会は「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」を可決した。同書は具体的な表記はないが、排外的に構築された「クルド人問題」と結びつき、強化する内容であった。番組では川口市でのヘイトデモや同意見書が議題となった。このとき出演者の柴田阿弥アナウンサー(人気アイドルグループ「SKE48」の元メンバー)は「ヘイトスピーチは絶対許されない」と述べた。意見書にも(市内の犯罪率減少の事実を示し)「暴走行為は日本人も取り締まられるべきですけど、これを一部外国人によるとしてしまうのは分断が進んでしまう」「一部外国人の犯罪取り締まり強化っていう風に絞らない方が良かった」と批判的に言及した。

 求められるのは柴田アナのような姿勢ではないか。「有名性」には「有名性」を。インフルエンサーらが排外主義/差別を煽るとき、同じく影響力のある「有名人」の社会的責任=反差別の意思を示すことが問われてもいるのではないだろうか。

(注1) 基本的な状況については次の記事を参照した。安田浩一「埼玉・在日クルド人の今―暴走する「ヘイト」は止まらないのか」nippon.com(2024年10月4日)

(注2) 日刊スポーツ「青汁王子、在日クルド人問題で『法律を守れない人は速やかに強制送還されるべき』私見」(2024年5月6日)/東スポWEB「三崎優太氏 川口市のクルド人の迷惑行為を批判『法律を守れない人は速やかに強制送還されるべき』」(2024年5月6日)/日刊スポーツ「へずまりゅう、埼玉に『クルド人のパトロールに行きます』と宣言『30人~50人集めて…』」(2024年10月19日)

(注3) マーシャル、P.D. 『有名人と権力─現代文化における名声』(勁草書房2002年)

(P.166-P.169 記事全文)

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