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市民セクター政策機構

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2024年は選挙におけるインターネットの影響力の大きさがクローズアップされた年であった。東京都知事選では、SNSを駆使して支持を広げた広島県安芸高田市の前市長である石丸伸二氏が2位に躍進したし、兵庫県では県議会において全会一致で不信任されて失職した斎藤元彦知事がインターネットを中心に支持を広げ、県知事に再選された。

 アメリカでは選挙におけるインターネットの影響力の大きさが認識されたのはかなり早く、1998年のミネソタ州知事選挙で、二大政党である共和党からも民主党からも立候補せず、第三の候補として立候補したジェシ・ベンチュラ氏が当選したのがその始まりとされている。

 ベンチュラ氏は当初、泡沫候補と一般にみなされていたが、支援者の一人であるフィル・メディスン氏がベンチュラ氏のウェブサイト(ジェシネット)を作成したことで、急速に支持を集めたといわれている。

 メディスン氏が作ったウェブサイトは選挙資金集めと支持者登録を主な目的としたシンプルなものであったが、ただ選挙資金の寄付と支持者登録をお願いするのではなく、ベンチュラ氏の政策をわかりやすく伝え、ウェブサイトを訪れた人が長くそこにとどまるような工夫もされていた。

 また、メディスン氏は対立候補が流すデマの打ち消しや、地方遊説の予定の伝達にもインターネットを活用した(横江公美『Eポリティクス』文春新書2001年参照)。

日本初のインターネット利用選挙


 日本では2013年に選挙期間中のインターネットの使用が解禁されたものの、2013年の参議院議員選挙ではインターネットを利用して得票を増やす候補者が出現せず、「ネットは票にならない」が政界の常識となった。しかし、2016年参議院議員選挙では新党改革から比例区に立候補した山田太郎候補が落選したものの、29万1188票を獲得して注目を集めた。

 山田候補は特定の支持組織を持たず、それゆえインターネットの利用に重点を置いた選挙活動をおこなったが、それにもかかわらず高得票(落選者の中では最高得票)だったので、注目されたのである。

 もともと山田候補はそれほど選挙に強い候補だったわけではなく、2010年の参議院議員選挙にみんなの党から立候補したときの得票は3万663票であった。2012年の総選挙でみんなの党の参議院議員が衆議院議員に転出したため、繰り上げ当選となり、当選後は主に表現の自由の問題に取り組んで若者に支持を広げた。しかし、表現の自由も当時は票にならないトピックとされており、山田候補自身、自分がどれだけ得票できるか半信半疑だったという。

 山田候補は2019年参議院議員選挙に、今度は自由民主党(自民党)から立候補し、54万77票を獲得する。この票数は自民党比例区候補の中で第2位の高得票であった。この選挙でも山田候補はインターネットの利用に重点を置いた選挙をおこない、表現の自由を中心に訴えた選挙戦を展開した。

 2022年参議院議員選挙では、漫画家の赤松健氏が自民党から立候補し、やはりインターネットの利用に重点を置いて、表現の自由を訴える選挙戦を展開。赤松氏は52万8053票を獲得して、自民党の比例区候補のなかで第1位の得票で当選した。赤松氏は著名な漫画家であり、山田氏よりはるかに知名度は高い人物であるが、それだけでは高得票の理由を説明できず、やはりインターネットの利用に重点を置いた選挙戦が功を奏したと思われる。

ネット選挙当選のための3つの掟


 山田氏・赤松氏のインターネットを利用した選挙戦はなぜ、成功したのだろうか。山田氏は2016年の参議院議員選挙の直後に著わした本(山田太郎『ネットには神様がいる』日経BP社2016年)の中でインターネットを利用する際に守らなければならない(山田氏流に言うと、“ネットの神様”に認められるため)3つの掟について述べている。

 一つ目は「ネットでは信頼を得ることが大事(嘘をついてはならない)」ということである。人間である以上、時には間違いを犯すこともある。悪気がなくても勘違いなどからインターネット上に誤った情報を流してしまうこともある。そのときに、こっそりと自分が発信した情報をネット上から消してしまったり、断りもせず直したりしてはならないと山田氏は言う。インターネット上では常に誰かの目が光っており、間違いをなかったことにしようとしても、既にその情報は誰かしらの目に触れてしまっており、「魚拓(画面のコピー)」をとられてしまっている場合もある。そのため、過去の発言などをなかったことにしてしまおうという行為はインターネット上ではすぐにばれてしまい、不誠実ととらえられ、削除した行為自体が拡散されてしまうこともある。それによって人々の信頼を一気に失ってしまうからである。

 二つ目は「ネットでは自分だけが発信者ではない(自分もまたネットワークの一員)」である。「ネットで数多くの情報を発信すれば、おのずと情報は拡散する」と人は考えがちであるが、実際にはネットに情報を載せるだけでは、その情報は拡散しない。政治家ではない第三者のユーザーが、情報を咀嚼し、その人なりの意見を付記しながら発信していくと、途端に説得力が増し、多くの人が受け入れやすくなる。だからこそ、「自分は情報の発信者だ」とおごることなく、自分が発信した情報はコントロール出来ないと考え、情報を拡散してくれる、いわゆる「インフルエンサー」の出現を待つことが重要なのである。

 三つ目は「継続は力なり」である。インターネットに情報を発信しても、当初は、なかなか情報は拡散しないし、ごく少数の人しか見てくれない。山田氏自身も2012年12月にネット放送を始めたときは、視聴者はわずか10人ほどで「本当に意味があるのか。やめた方がいいのではないか」と身内のスタッフから指摘されたという。しかし、1年ほどして視聴者数が100人ほどに達し、スタートから2年ほどでようやく軌道に乗ったという。このように粘り強く続けることで、インターネット上の影響力を高めることが出来るのである。

 ただ、山田氏によれば、政治活動には「WHY(目的)」「WHAT(中身)」「HOW(手段)」の3つが必要であり、インターネットの活用はHOWに過ぎないという。やはり、政治家にはWHYすなわち、自分が何を成し遂げたいのかという点が最も重要であり、強烈なWHYを持ったとき、人は心動かされるのである。

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