●フェアトレードと産消提携の社会的連帯経済の度合
京都大学大学院農学研究科 教授 辻村英之
Ⅰ.社会的連帯経済セクターの拡張とポスト新自由主義
著者は社会的連帯経済セクターを、「行き過ぎた資本主義」セクターに対して競争・対抗できず疎外・貧困化された生産者、労働者、消費者、市民ら(連帯経済の主体)が、連帯・協同を基礎として資本主義セクターに対して拮抗することで疎外・貧困化から脱すること、そして同じく「行き過ぎた資本主義」の影響で非営利性が高い社会的・公共的ニーズに向かう資本の流れが停滞し、それらニーズが満たされにくい中、連帯経済の主体が、連帯・協同を基礎としてそれらニーズを満たす(補填する)ことの2つの機能(拮抗・補填)を発揮するものとして、位置付けている。
本論で分析する、ルカニ村(タンザニア・キリマンジャロ山中の西斜面にあるコーヒー産地)を対象とする著者企画のフェアトレード・プロジェクトは、多国籍企業が小規模農民からコーヒーを買いたたくことに「拮抗」するルカニ村農協が、産地サイドの主体になっている。日本(消費地サイドの主体であるキョーワズ珈琲)へのフェアトレードのおかげで、農協は小規模農民から高く買付できるようになり、その高価格に「拮抗」できない多国籍企業は、ルカニ村でのコーヒー買付から退出した。このように同フェアトレードは、多国籍企業が利益を得られず退出した農村買付を「補填」している。「拮抗」と「補填」の両機能を発揮する社会的連帯経済の取り組みである。
もう1つの分析対象である生活クラブ生協の共同開発米事業(産直提携:生活クラブ生協とJA庄内みどり遊佐支店〈以下、遊佐町農協と略称〉)を介した産消提携)については、基本は後者の「補填」である。つまり民間企業は利益にならないため、市場価格より高い買付をしないが、減農薬・無農薬米生産の持続可能性保障という社会的ニーズを満たす、「消費者が生産者を支える」社会的連帯経済の取り組みである。さらに共同開発米事業は、より利益が生じる産業や農産物に転換せず、消費者から要望された減農薬・無農薬米を提供し続ける「生産者が消費者を支える」特性も持つ。
また著者は、新自由主義の特徴(「小さな政府」や市場・競争原理の重視など)から離れて、新自由主義の弊害の改善(社会的公正の回復〈貧困削減や所得分配の改善〉、環境保全、地域的自立など)をめざすのが新たなポスト新自由主義だと捉えており、それゆえ社会的連帯経済セクターの拡張や、その拡張を促す社会的連帯経済度合の高い取り組みが、新たな時代を引き寄せると考える。
そこで本論では、上記2つの分析対象(フェアトレードと産消提携)の社会的連帯経済の特性・度合を、それらの価格形成に着目して解明し、その高さがゆえに生じている成果・影響とともに限界・課題をも明らかにする。
(抜粋)
