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弾劾後の韓国 市民が導く民主主義そして社会連帯経済
京畿道議会政策支援官 崔 珉竟 弾劾後の韓国

【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年7月発行【 459号】特集:生産する消費者が時代を変える 物価高に抗する

 2025年4月4日、大韓民国憲法裁判所は尹錫悦大統領の弾劾を認めた。この重大な判決は、単なる政権交代にとどまらず、韓国の民主主義の土台が依然として生きていることを証明する出来事だった。街で、地域で、日常生活の中で変化の可能性を育んできた市民たちは、再び韓国社会の主体であることを示した。

 私たちは今、新たな転換点に立っている。迫る第21代大統領選挙は(原稿執筆は2025年5月上旬)、過去の歪みを乗り越え、未来を設計する機会であり、目覚めた市民たちはこの変化の方向を決定する重要な鍵を握っている。

社会連帯経済、過去3年間の徹底的な破壊と後退


 この希望の中でも、私たちはこの3年間で社会連帯経済が直面した危機を忘れてはならない。この連載で繰り返し指摘したように、尹錫悦政権は発足以降、社会連帯経済関連の予算を大幅に削減し、雇用労働部・行政安全部の主要支援事業を縮小・中止した。これにより、社会的企業、協同組合、地域企業など多くの地域基盤組織の土台が崩れ、中間支援組織は解体または弱体化した。政策の縮小は単なる財政問題にとどまらず、10年以上かけて積み上げてきた社会連帯経済の生態系を構造的に毀損した。

韓国社会連帯経済の政治的宣言:もはや沈黙しない


 このような後退状況の中で「韓国社会連帯経済(SSE KOREA)」(2025年4月、韓国社会的経済連帯会議から名称変更)は、政治的実践を宣言した。2025年の総会において、「尹錫悦政権の弾劾は憲政秩序を守るための民主主義の要請」であることを明確にし、社会連帯経済はもはや政治から距離を置くことはできないという立場を表明した。

 「特定候補の支持排除」という原則のもと、連帯経済陣営は市民社会と共に大統領選に向けた政策を策定し、提案する形で今回の大統領選挙に参加している。これは「政治介入」ではなく、制度を動かし現実を変えるための民主的介入の宣言である。

 韓国社会連帯経済陣営が、第21代大統領選挙に向けて策定した12の公約は以下の通りである。

・地域均衡発展特区の指定

・気候危機に対応するエネルギー協同組合の活性化

・包括的なケア体制の構築

・包摂的雇用の創出

・社会的住宅の拡大と資産化

・都市コミュニティの再生と生協の育成

・社会的経済の起業および連合事業の拡大

・社会的金融インフラの整備

・公共調達と社会的価値の拡散

・社会問題解決型R&D投資

・社会連帯経済秘書官の新設

・基本法の制定と制度改善

 とりわけ社会的金融関連の公約は、自立的な生態系の構築と市民資産化戦略を包含し、公共性と金融民主化を統合する重要な戦略として提示されている。政策が後退する中で、むしろ社会的金融は新たな可能性として注目されている。

社会的金融の新たな波


 信用協同組合(信協)は設立当初から、地域共同体に基づく相互金融組織として、社会的弱者や疎外された層を支援してきた伝統を持っている。特に2008年の世界金融危機以降、持続可能な金融モデルとしての社会的金融への関心が世界的に高まり、信協もその本来のアイデンティティと重なる社会的金融を本格的に推進するようになった。

 国内の社会連帯経済組織が直面している代表的な困難は、資金調達の制約である。既存の商業金融機関は、収益性や担保能力に基づいた評価基準を適用し、社会連帯経済組織に対して不利な条件を提示するか、融資自体を敬遠する傾向にある。これに対し、信協は組合員中心の運営と地域密着性を強みに、社会連帯経済組織との協業の可能性が高かった。

 信協は2013年から、社会連帯経済との協業を準備し、2021年には「社会的金融本部」を設置、現在は全国61の拠点信協を中心に社会的金融の実践を拡大している。2025年4月に開催された「社会的金融拠点信協ワークショップ」では、次のような取り組みが発表された。

・社会的預託金の活用

・共生協力融資制度の整備

・共同マーケティング戦略

・自治体との協力モデル

 社会的預託金は、市民が利子の一部を放棄し、社会連帯経済組織を支援する預金商品であり、ソウル幸福信協や光州文化信協などがこれを運用し、地域社会との連帯を実践している。共生協力融資は、組織の社会的貢献度や協業可能性を評価して実行され、実質的な「社会的信用」体系を形成している。

 特に城南住民信協の事例は注目に値する。彼らは地域の訪問ケア組織、医療福祉社会的協同組合、気候危機対応エネルギー協同組合、若者協同組合 、青年起業チームにはスタート資金、マウル共同体に関する様々な社会連帯経済組織と連携し社会的金融モデルを試行している。市民参加型預託金は教育プログラムと連携し、資産化と社会的価値教育を同時に進めている。城南住民信協は、単なる金融機関を超え、連帯経済のプラットフォームとして機能している。

 このように、信協の活動は政府政策の空白を地域実践で埋めるプロセスであり、社会的金融の構造転換を示す実例でもある。しかし、この流れが継続し、拡大するためには、新たな政治権力の応答が必要である。

社会連帯経済に対し新政権が応答すべき3つの課題


 第21代大統領当選者には、以下の課題が明確に課せられている。

1.社会連帯経済を国政の中心的アジェンダに据えること

大統領室直轄で「社会連帯経済秘書官室」を新設し、官民合同の「社会的金融委員会」を構成し、中長期的な政策を統括すべきである。

2.既存の法整備の完了と制度の補完

社会的経済基本法、社会的金融育成法、社会的成果報酬法の早期制定と施行、協同組合法・社会的企業育成法・地域企業関連指針などの法令改正が必要である。

3.公共調達の拡大、販路支援、教育・人材育成、市民参加の拡大など、包括的な活性化計画の立案

 目覚めた市民が再び創り出した転換の時代、今こそ社会連帯経済は「経済民主主義」の名の下に、政治と制度の中心に立たなければならない。信協の社会的金融は、その実践の手段であり、共同体回復への道である。

 韓国の社会連帯経済は再び問いかける。「経済は誰のためのものか?」

 次期政権は、その問いに誠実に答えなければならない。

 2025年6月3日に予定されている第21代韓国大統領選挙を前に、韓国政治はまさに予測不能の局面に突入している。

 最大野党「共に民主党」の大統領候補である李在明氏は、公職者としての発言に虚偽の内容があったとされ、現在は大法院(最高裁)での破棄差戻しを受け、高等法院での再審理を控えている状況だ。この「司法リスク」は選挙戦に大きな影響を与えると見られている。

 一方、与党である「国民の力」は、尹錫悦前大統領の弾劾による罷免という衝撃的な出来事の後、党としての信頼を回復しようと候補擁立を急ぐ。そんな中、2025年5月2日には韓悳洙元国務総理が突如として大統領選への出馬を宣言し、政界に新たな波紋を呼び起こした。

 この原稿を執筆している2025年5月上旬現在、韓元総理と国民の力の金文洙候補との間で「候補一本化(単一化)」の可能性が非常に高いと報じられており、保守勢力が再び結集して選挙戦を有利に進めようとする動きが活発化している。つまり、今回の選挙は、司法リスクを抱える李在明候補、弾劾後の政権与党・国民の力、新たに登場した韓悳洙元総理と保守勢力の連携という三つの政治軸が絡み合う、極めて不透明で緊張感のある構図となった。

 市民が政権を変えたその手で、今度はどの未来を選ぶのか?

 社会的連帯と経済民主主義を志向する声が広がる中で、今回の大統領選は単なる政権交代ではなく、韓国民主主義の進路を問う歴史的な選択の瞬間となるだろう。

〔筆者追記〕

 2025年6月3日の第21代大統領選挙では、李在明候補は49・42%の得票率で当選した。一方、金文洙候補(41・15%)と李俊錫候補(8・34%)の得票率を合算すると49・49%となり、李在明氏の得票率をわずか0・07ポイント上回った。これは、李在明氏が単独では最多得票を得たものの、有権者の過半数の支持を得ていないことを意味する。彼の今後の政権運営には、政治的統合と協治の姿勢が一層求められるだろう。

 李在明氏は、かつて城南市立病院の設立運動に関連して指名手配され、逃亡生活を余儀なくされた際、城南住民教会の祈祷室に身を潜めていたことがあった。そのとき、彼は「城南市長になろう」と心に誓ったとされている。彼はその後、共に民主党の大統領候補受諾演説でもこの祈祷室に言及し、6月2日の大統領選最後の記者会見の場所としても住民教会を選んだ。これは「初心を忘れない」という決意の表明であり、政治家李在明の原点を再確認する行動でもあった。

 彼の政治スローガンは時代とともに変化してきた。城南市長選挙第2期では「城南はやります」。京畿道知事選では「李在明はやります」。そして今回の大統領選では「結局、国民がやります」と掲げ、主体は市民であるという信念をより強く打ち出した。

 6月4日、彼は大統領就任式で、以下の3つの優先課題を強調した。①崖っぷちに立たされた国民の暮らしを立て直す、②装甲車と自動小銃によって破壊された民主主義を立て直す、③分断された国民の感情を癒やし、常識・公正・連帯の精神を取り戻す。

 人間李在明は、城南市のオリエント時計工場で少年労働者として障害を負い、その後独学で学び、弁護士となり、数々の政治的弾圧を乗り越えてついに大統領の座にたどり着いた。

 しかし、李在明大統領の5年間の任期の前には、韓国社会が直面する数多くの課題が立ちはだかっている。その歩みが天の導きと共にあらんことを、私は心から祈っている

(全文)

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