●岩根邦雄と生活クラブの精神
岩手県立大学総合政策学部講師 大和田悠太
かねて生活クラブ運動の歴史に学問的関心を寄せてきた筆者は、岩根さんの最晩年に継続的な対話の機会を頂いた。少し前から岩根さんを囲む組合員らの集まりに末席で参加していたが、そのうえで2023年度に連続的なインタビューを実施した。岩根さんには自身の歩みを振り返った著作が複数あるが、なお語り残されたことをオーラル・ヒストリーの手法に基づく対話の場で引き出すのがねらいだった。
このとき既に90歳をこえていた岩根さんは、自らの経験に再解釈を試みるとともに、世界の行く末を大きな視野で考えておられた。全盛期と比べて話すスピードはゆったりとしていたかもしれないが岩根節は健在であった。足を悪くされていたが、いつも背筋はピシッと伸びていた。最後まで、その佇まいは岩根さんらしかった。
若き岩根さんは写真家であった。しかし、60年安保が転機となり生き方を根本的に問い直す。江田三郎と出会い、政治を変えたいとの思いで社会党に入った。しかし、地域に運動が乏しい党の実態に幻滅した。そこから市民社会に運動の核となる組織をつくることが何より必要との考えで、地道な活動を始めた。様々な困難に直面しつつ試行錯誤を重ねた経験が、生活クラブ結成とその後につながった。
(抜粋)